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2009年2月15日 オペラ「魔笛」その2

以前の「魔笛」(2007年11月8日)の日記はこちら

スタジオーネシステムを採用しているザールラント州立劇場の演目で次シーズンも再演されている演目が幾つかあるが、その中でもモーツァルト「魔笛」だけは再々演されている。初演は2006年のクリスマス。3シーズン目を迎えたその「魔笛」が2009年2月14日(土)、ザールラント州立劇場でシーズンプレミエを迎えた。

先シーズン、先々シーズン、ザールラント州立劇場の「魔笛」(ドイツ語上演、フランス語字幕)は、新聞の批評にも「絶対に観るべし!」と書かれていただけあって、ほぼ毎回完売に近い状態になっていた。今年、自分は公演数日前のチケット売り場を訪れたが、一枚だけならあるという返事が返ってきた。今年もおそらく完売の続く人気演目になるだろう。

「魔笛」のポストカードのようなものそして2月14日、劇場を訪れたが、劇場内の当日券売り場には「完売」の表示が出ていた。自分の席は最上階の端から2席目という場所で、オケピットを真下に見下ろすような場所だった。客席を見ると子供の姿も多い。家族で訪れる人も多いのだろう。

開演時間は午後7時半。少し回ったところで指揮者トリンクスが姿を現した。それに気が付く人が少ないのか、観客の拍手がかなり小さい。ワンテンポ遅れて観客の拍手が起こった感じだ。そして彼は直ぐに演奏を始める。

上から彼の指揮を見ていて感じたのは、彼の指揮が以前よりアクロバット的になっているということ。彼が「魔笛」を指揮した当時、彼は第一常任指揮者(現在は暫定音楽総監督)だったが、その後、ベルリンやダルムシュタット、日本などで指揮を振るなど様々な経験がそうさせるのだろう。そしてオーケストラの音も変わったという印象を得た。もちろん毎回同じ場所で聴いているわけでもなく、聴く方の体調や気分にもよるので一概には言えないが、それでも音が良くなっているように思われる。

ところで今シーズンの「魔笛」の配役は、先シーズンと大きく変わっていない。しかしその変化の中で個人的に一番注目していたのは、夜の女王を歌う歌手である。アニア・マリア・カフタンというドイツ人ソプラノ。聞いたことのない名前だったので、彼女のホームページを見てみた。ところで一般的に「『夜の女王』を歌えれば一生それだけで食べていくことが出来る」ということをよく耳にする。それだけ難しい。彼女のホームページを見ると、彼女が歌っているのは、ほとんどがその役である。

また彼女のオペラのレパートリーを見ると、そこにあるのは僅か数作品だけだった。これまで夜の女王を中心に活躍してきた、また今後活躍するであろう歌手ということ。夜の女王を、彼女はこれまでザクセン州立歌劇場(ゼンパーオペラ)やミュンヘンのゲルトナープラッツ州立劇場、その他ドイツ・ボンやオーストリア・ザルツブルクで歌っている。その彼女が歌うと言うことで気になっていた。夜の女王のアリアの時、横の席の人が身を乗り出すのが分かった。自分もそれにつられて少し前のめりのようになった。

そういえば以前の日記では、このオペラのジングシュピール(歌芝居)的なところが、この演出では欠けていると言ったことを書いたが、今回の公演では、台詞の方にまで意識が行っているように思われた。それを歌った歌手にも以前より余裕が出てきたのかも知れないし、そういった声が届いたのかも知れない。

モーツァルトの「魔笛」を今回観て、改めてそれぞれの役の重要さが感じられた。なかでもザラストロの存在感がその重要な点の一つに挙げられるかも知れない。今回もこれまでに続いてその役を歌ったヒロシ・マツイ(松位浩氏)の懐の深さが感じられるような存在感のあるザラストロは、舞台に良い意味での緊張感をもたらしていた。公演後のカーテンコールで彼が出てきたときに、拍手が一際大きくなったのもそれを表している。そういえば自分の横に座っていた年配の男性はマツイがカーテンコールで舞台に姿を現したときに「ブラヴォ」と呟いていた。カーテンコールで彼がそう呟いたのはその一度だけで、おそらく他人に聞かせるために呟いたのではなく、本人が無意識に呟いたのかも知れない。その声は舞台には届かないものだろうが、自分にはそれが大きなものに聞こえた。

追記

今シーズンの「魔笛」、結局自分は上記の一度しか聴くことが出来なかった。毎回完売だった。


配役

Die Zauberflöte

Eine deutsche Oper in zwei Aufzügen
Text von Emanuel Schikaneder
Musik von Wolfgang Amadeus Mozart

Musikalische Leitung: Constantin Trinks
Inszenierung: Andreas Gergen
Bühnenbild: Stephan Prattes
Kostüme: Regina Schill

Sarastro Hiroshi Matsui
Tamino Algirdas Drevinskas
Sprecher Otto Daubner / Vadim Volkov
Erster Priester Otto Daubner / Vadim Volkov
Zweiter Priester Michael Müller
Königin der Nacht Anja Maria Kaftan / Alexandra Lubchansky
Pamina Elizabeth Wiles
Erste Dame Naira Glunchadze
Zweite Dame Judith Braun
Dritte Dame Maria Pawlus
Drei Knaben Mitglieder des Kinderchores des SST
Papagena Sabine von Blohn
Papageno Guido Baehr / Stefan Röttig
Monostatos Rupprecht Braun
Erster Geharnischter Vladimir Makarov
Zweiter Geharnischter Antonij Ganev / Markus Jaursch


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