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2011年4月6日 州立オーケストラ「モーツァルトのレクイエム」

広告柱にあるポスター多くの作曲家がレクイエム(死者のためのミサ曲)を書いている。その中でドイツで最も演奏を聴く機会がある作品の一つは間違いなくヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)のレクイエム(1791年作曲を始めるが途中でモーツァルトが亡くなる)だろう。私もこれまでドイツの教会やコンサートで何度も耳にした。本音を言えば「モーツァルトのレクイエム(のコンサート)がある」と聞けばヴェルディやフォーレだったら積極的に聴きに行きたいと思うことが多かった。私にとってモーツァルトのレクイエムは長く感じられる作品だった。

4月3日(日)、市内コングレスハレにおいてザールラント州立オーケストラでそのモーツァルトのレクイエムのコンサートがあった。指揮はザールラント州立劇場音楽総監督トシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)。気温も低くなく過ごしやすい日曜日の午前中、コンサート会場に向かったが、日曜日の朝にもかかわらず完売に近い状態だった。日曜日の午前中は教会へ行く人も多いので、コンサートは完売にならないことが多い。

このコンサートの前、オーケストラ・マネージャーが舞台にあがり、このコンサートを東日本大震災の犠牲者に捧げるとともに、休憩中に寄付をお願いするといった説明があった。この説明は翌月曜日、午後8時からのコンサートでもなされた。月曜日はチケット当日券売り場に長蛇の列が出来ていたが、その前に既に完売となっていた。

このコンサート、前半はヨハネス・ブラームス(1833-1897)のヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調作品102(作曲家自身の指揮で1887年ケルンで初演)だった。ヴァイオリンはザールラント州立オーケストラの第一コンサートマスターが、チェロは同オーケストラのソロ・チェリストが演奏する。指揮者カミオカが楽しそうに指揮をしたこの作品は優しさや楽しさが感じられ、特に木の温もりが感じられる演奏だった。ただアンコールでソロ奏者2人が演奏したヨハン・ハルヴォルセン(1864-1935)作曲のヘンデルの主題によるパッサカリアが強いインパクトがあって、ブラームスの作品の印象が弱くなってしまったような気がする。

開演前しかし2日目の方は、そういったアンコールのことも分かっているので、よりブラームスの作品に集中して聴くことが出来た。特にバスの響きが心地よく感じられる。これはもう一度聴いてみたい作品だ。ところで同コンサートが催された日はちょうどブラームスが1897年に亡くなった日である。偶然かどうかは分からないが、この作品はブラームスの作曲した最後の管弦楽作品なので、ある意味レクイエム的なものになっているのかもしれない。

休憩時にはオーケストラの人々が募金箱を持って歩いていたが、多くの人が寄付しているのが見える。ただ1日目は小さな缶だったので入れづらかったのか、2日目は先日、ルートヴィヒ教会で行われたチャリティーコンサートに使用したピンク色の箱が使われていた。桜の模様がついた春らしい色の箱だ。

後半はモーツァルトのレクイエム。指揮者カミオカが振るモーツァルトのレクイエムならば、これまで聴いたレクイエムとは違っているかもしれない。それを期待してコンサートを訪れたので、これから始まる演奏は楽しみだった。プログラムには約1時間と書かれているが、これまで教会の演奏会などではそれ以上に感じられるほどだった。

結果から書けば、これまで聴いたモーツァルトのレクイエムの中で最も美しく、良い演奏だった。公演前に奏者の何人かが、「弦から煙が出るほど速い」と冗談ながらに話していたので、どれほど速いのか楽しみでもあったが、聴く方としては全く速く感じず、逆に心地よい速さだった。そして時には小さく、時には大きく起伏がある演奏だった。しかしそれでもテンポはゆっくりしたものを感じない。教会での演奏会は音が響くので細かい音まで聴くのは難しいが、コンサートホールならばそういった音まで聞こえてくる。その中にもドラマがあるようで音楽に引き込まれていく。今まで聴いていたモーツァルトのレクイエムは何だったのか、と思うほどに、今回の演奏は美しさが感じられるものだった。

その中で合唱の存在も大きい。非常に綺麗に歌っている。この合唱はカミオカにとっても満足行くものだったのだろう。というのは、一般的にカーテンコールでは合唱指揮者が舞台上に姿を現し、合唱団を立たせる。今回も1日目はそうだった。しかし2日目2度目のカーテンコールではカミオカ自身が合唱団を立たせていた。

カーテンコールまた今回のモーツァルトのレクイエムは1日目と2日目では違う演奏だった。座席の場所も、また天候や演奏会を訪れる気持ちも全く同じではないので、感じ方も当然違ってくるが、指揮者や演奏者がそれだけ多くの引き出しを持っていると言うことだろう。何れの公演も盛り上がり、観客の反応は良かった。コンサート終了後、出口に向かう客も口々に良かったと言っている。こんなレクイエムは初めてと興奮した顔で言っている人もいる。

演奏者の一人が公演前に、速くて激しくて死者が眠りから覚めそうなレクイエムと冗談ながらに言っていたが、私は逆に起伏があっても穏やかな綺麗な音楽に聞こえた。死者も安らかに眠れるだろう。ところで一番印象に残ったのは最後の最後で、演奏が終わったあと、指揮者カミオカは指揮棒を振り下ろさず、顔の前で両手で指揮棒を握りしめ、目を閉じている時だった。それは数秒間続いた。明らかに指を折って数えられそうな時間だ。その間、ホール内は息を止めて静まりかえっている。まるでその時が祈りの時間になっているようだった。


6. Sinfoniekonzert

Johannes Brahms: Konzert für Violine, Violoncello und Orchester a-Moll op. 102
Wolfgang Amadeus Mozart: Requiem d-Moll KV 626

Solisten: Wolfgang Mertes, Violine - Benjamin Jupé, Violoncello / Elizabeth Wiles, Sopran / Judith Braun, Mezzosopran / Algirdas Drevinskas, Tenor / Sefan Röttig, Bariton / Opernchor des Saarländischen Staatstheaters

Leitung: Toshiyuki Kamioka

公演前のコングレスハレ

パンフレットとチケット

2日目公演前のコングレスハレ、午後8時前でも明るい

パンフレットとチケット


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