Homeザールブリュッケンでの日記 > オペラ「ファエトン」

2010年12月18日 オペラ「ファエトン」

チケットとプログラム2010年12月11日(土)、ザールラント州立劇場でジャン=バティスト・リュリ(1632-1687)作曲のバロックオペラ「ファエトン」(1683年作曲)がプレミエを迎えた(フランス語上演、ドイツ語字幕)。これは古代ローマの詩人オウィディウスによって書かれた「変身物語」の中に書かれている話の一つで神話が元になっている。一言で説明すれば、太陽神の息子ファエトンが太陽という馬車の操縦を誤り、それによって大地が燃えた。ゼウスがそれに雷を落とし鎮めたといった話である。指揮はバロック専門の指揮者ジョルジュ・ペトルー。彼は2009年、同劇場でアレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)作曲のオペラ「イル・ティグラーネ」(1715年ナポリにて初演)も指揮をした。

演出はクリストファー・オールデン。彼も2009年、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)作曲のオペラ「サロメ」(1905年ドレスデンにて初演)を同劇場で演出している。その「サロメ」もそうだったが、今回の「ファエトン」も意味の分かりづらい動きが出てくる。例えば合唱の人たちが横一列に並び、膝を抱えるようにして床に座っている。左の人から一人ずつ、その足を伸ばしていく。それはまるでピアノの鍵盤を左から一音ずつ押していくようなものだが、舞台上どういった意味があるのか直ぐには分からない。また太陽の馬車も、演出上では三輪車で、ファエトンが三輪車に乗って舞台上を回っている。演出家クリストファーの双子の兄弟デヴィットも多くのヘンデル作品などバロックの作品を演出しているが、どちらも美という観点より、本来の物語とのギャップを前面に出し、コミカルな面白さを作っている。最後のファエトンが雷に打たれる場面は、三輪車に乗ったファエトンを火縄銃で遠くから撃つといったシーンになっていた。

そして歌手の衣装もそれだけ見れば、誰が誰か分からない。物語を知らない人が見れば一見しただけでは人間関係が分かりづらい。そういった点でも理解しやすい演出とは言えなかった。逆に物語を知っている人にとってはそこまで読み替えていることに拍手を送りたいという人もいるだろう。このオペラの話はギリシャ神話であるが、オペラの舞台は現代の核シェルターの中になっている。他には油まみれの鳥が小道具で出てきたりと環境を意識した作品になっているが、原作と舞台の世界が離れているようで、オペラだけを見て物語を感じるのは難しかった。

劇場前しかし音楽の方はチェンバロと弦楽器の歯切れ良い演奏が心地よく、その中に音の感情があり、一言で言えば非常に美しく、格好良い演奏だった。後日、ドイツを代表するオペラ雑誌「Opernwelt」を始め、様々なところで批評が載せられた。いずれも演奏のクオリティの高さに関して書いている。ペトルーの指揮、オーケストラ、合唱、歌手陣。どれも高評価を得ているようだ。そういえばオーケストラピットの床も上げられているので、音が直に届きやすくなっているのも、音楽の伝わりやすさに繋がっているかもしれない。

チケットが完売となった初日公演のカーテンコールでは演奏者には大きなブラヴォーが幾つも飛んでいた。中でも合唱に対するものが大きかった。そういえば雑誌「Opernwelt」における昨シーズンの評価で、ザールラント州立劇場の合唱団は最優秀合唱団にノミネートされていたが、その際の説明がバロックから現代物の作品まで何れも上手く歌っているというものだった。今回もその実力が発揮されているのだろう。

ザールラント州立劇場では毎年のようにバロックの作品が上演されているが、初日や公演2日目は完売かそれに近い状況だが、公演を追うごとに観客の数が減っているのが分かる。この「ファエトン」は雑誌や新聞で高評価を得ているだけに今後の公演も楽しみである。可能ならばもう一度観てみたい。きっと作品に対する理解も今回以上のものになるだろう。

ところで今回の公演とは直接関係がないが、プレミエ公演当日、劇場正面入り口前では署名活動が行われていた。ソロの歌手は一定期間、劇場で勤めれば解雇されないという決まりがあるが、その一定期間の終了直前に二人の歌手の契約が延長されないことが決まった。二人ともザールラント州立劇場で歌い始めてから10年以上経っており、人気もあるので、その決定に反対する人たちが署名活動を行っていた。こちらもどのようになるか気になるところである。


Phaëton

Barockoper von Jean-Baptiste Lully

Musikalische Leitung: George Petrou
Inszenierung: Christopher Alden
Bühnenbild: Marsha Ginsberg
Kostüme: Doey Lüthi
Choreinstudierung: Jaume Miranda
Lichtdesign: Lutz Deppe

Phaëton: Johan Christensson
Théone: Sofia Fomina
Libye: Tereza Andrasi
Clymène: Judith Braun
Èpaphus: Stefan Röttig
Mérops/Saturn: Hiroshi Matsui
Le Soleil/La Déesse de la Terre: François-Nicolas Geslot
Triton: Algirdas Drevinskas
Protée/Jupiter: Guido Baehr / Olafur Sigurdarson
Astrée/Une des Heures/Une Bergère Égyptienne: Elizabeth Wiles
Opernchor des SST


▲ページの最初に戻る