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2010年10月25日 オペレッタ「美しきエレーヌ」

ポストカード演出の勝利と言えるかも知れない。ここまで上手く読み換えが成功している作品は珍しいだろう。舞台後方には大きく「ZEUS」と書かれたネオン表示があり、舞台上にはマダムの格好をした神官カルカスの姿がある。ザールラント州立劇場で10月21日(土)に初演を迎えたジャック・オッフェンバック(1819-1880)のオペレッタ「美しきエレーヌ」(1864年パリ初演)である。

本来のあらすじは紀元前、古代ギリシャのスパルタであるが、このオペレッタではファッション事務所が舞台になっており、エレーヌ(ヘレネ)はトップモデルという設定になっている。神話の何処か真面目な雰囲気はなく、大衆的な視線で見た喜劇のような演出になっている。ここまで大きく設定を変えてしまうと、話が分かりづらくなってしまう可能性があるが、現代的になっている分、オリジナルのストーリーを知らなくても楽しめる内容になっている。

初日公演のカーテンコールで演出家アンドレアス・ゲルゲンが舞台に姿を現したとき、観客からどういった反応が出るか楽しみだったが、ブーイングは聞こえず、幾つものブラヴォーが飛んでいた。彼はこれまで同劇場でモーツァルト「魔笛」やフンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」を演出しているが、分かりやすい綺麗な舞台を作っている。下手にひねらずシンプルで内容を伝えやすい演出は観客には親切で、その分、音楽や舞台に集中してその世界を楽しむことが出来る。

開演前の劇場そして今回は歌手陣の存在感も大きかった。Guido Baehr演じるカルカス、Stefanie Krahnenfeld演じるエレーヌ、そしてJevgenij Taruntovのパリス。コミカルな役を分かりやすく演じている。それが観客にも伝わり観客も大きく笑ったり、台詞や動きに対して拍手をしている。

ただ少し性的な描写があるなど大人向きな演出になっているが、それも笑いを誘う要因の一つかも知れない。

そういえばポストカードに印刷されているような赤ひげを蓄え赤髪に角が生えた男性が舞台が始まる前から、観客を驚かせるように客席の中を歩いていた。その顔を観客の顔のすぐ側まで持って行ったりしている。驚いている年配の女性や笑っている男性、真横に顔があるのに全く気がつかない人など、人それぞれの反応もあって面白い。この野蛮人のような姿はファッション事務所的な演出より本来の神話的な設定の方がふさわしいように思われる。彼らはこの舞台では黒子のような役割を果たしていた。

パンフレットとチケット今回のように演奏が始まる前から舞台が始まっているような演出は、ここ最近のザールラント州立劇場の演目ではよく見られるような気がする。もちろん演出家は毎回違っているが、例えば指揮者が既にオーケストラピットにいるなど、具体的な開演が曖昧になっているような作品が多い。流行なのだろうか。

「美しきエレーヌ」は派手で大人的な演出の印象もあって、このオペレッタはどちらかと言えば演劇的な作品のように感じられる。しかしそれは言い換えれば、音楽のメリハリのなさと言えるかも知れない。ドタバタ劇を演出するような演奏があれば、より舞台が生きていただろう。それ故か本来聴きどころであるアリアや重唱がそれほど目立っていない。それが少し残念な気もしたが、それでも話は分かりやすく公演は盛り上がっている。

そして2010年の大晦日は同演目が上演されるが、年末の賑やかな雰囲気にふさわしい演目だと言える。可能ならその日の公演も観てみたい。


Die schöne Helena

Operette von Jacques Offenbach

Musikalische Leitung: Thomas Peuschel
Inszenierung: Andreas Gergen
Bühnenbild: Stephan Prattes
Kostüme: Susanne Hubrich

Paris: Jevgenij Taruntov
Menelaos: Rupprecht Braun
Agamemnon: Stefan Röttig
Kalchas: Guido Baehr
Achilles: Algirdas Drevinskas
Ajax I.: Sascha Stead
Ajax II.: Andreas Berg
Helena: Stefanie Krahnenfeld
Orestes: Tereza Andrasi / Judith Braun
Bacchis: Sabine von Blohn / Alexandra Didié
Naomi Rempel: Nina Larina / Silvie Offenbeck
Claudia Schisser: Laura Demjan / Claudia Scheiner
Der Opernchor des Saarländischen Staatstheaters


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