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2010年10月5日 オペラ「サコンタラ」

先日、定期購読しているドイツのオペラ専門誌「Opernwelt」が家に届けられた。この専門誌はドイツ語圏のオペラ専門誌では最も権威あるものである。そしてシーズン最初に届けられるこの号は、先シーズン、2009/2010年シーズンの総評になっている。その中で幾つかザールラント州立劇場が賞にノミネートされていた。年間最優秀劇場、年間最優秀合唱、「ドクター・アトミック」の演出でイモ・カラマンが年間最優秀演出(彼はその前のシーズン、ザールラント州立劇場で上演された「氷と鋼鉄」でも同部門でノミネートされていた)、ザールブリュッケン及びルクセンブルクで「ローエングリン」を指揮したコンスタンティン・トリンクスが年間最優秀指揮者、オペラ「サコンタラ」が最優秀世界初演作品、同作品で歌ったエリザベス・ワイルズが新人賞にそれぞれノミネートされていた。

開演前の劇場その「サコンタラ」(シャコンタラ、シャコンターラ、ザコンタラなど幾つもの発音を耳にした)は先シーズン3月27日(土)にプレミエを迎えたフランツ・シューベルト(1797-1828)のオペラである。1820年に作曲が始められたが未完のままシューベルトは亡くなった。それを2001年、デンマーク人作曲家カール・オーエ・ラスムセン(1947-)がスケッチを元に残りを作ったのが同作で、これまで録音は一度だけされており、舞台としてはザールブリュッケンでの公演が世界初演となった。

この作品の演出は同劇場オペラ監督のベルトルト・シュナイダー。この作品における彼の演出は一般的なオペラ作品のものとは少し違っていた。というのは指揮者や演出家が記載されている配役表には「舞台」という欄もあるが、この作品はパンフレットなどにも「舞台」ではなく「空間」となっている。舞台上だけでなく、観客席を含めたホール全体を意識している。例えば客席各階の手すり(のある)部分が舞台上にも延ばされ、手すりが一周して楕円形を描くようになっている。そしてそのために手すりは金色に塗り直された(その色はこの公演が終わってからもそのままとなっている)。また客席の前数列がふさがれ、そこに舞台が延長された。そのほか、テレビ電話のようなものやプロジェクターなど映像を使ったりしている。

ホール内に入ると、上に書いた舞台上まで伸びた手すりに目が行く。舞台袖からはゆっくり喋りながら合唱の人たちが姿を見せ、舞台上では小道具を運んだりしている。つまり観客がゆっくり喋りながら席に着くように、合唱の人たちも同じように姿を見せ、まるでそれは鏡のようになっている。それゆえ、手すりが舞台上にも延長されているのかもしれない。

劇場この「シャコンタラ」の舞台は紀元300年頃のインドで、一般市民の娘シャコンタラと王の愛の物語となっている。そして舞台の見所の一つにインドの自動車会社タタ・モーターズが2008年に発表したタタ・ナノのドイツ初お披露目がある。この公演がドイツで始めての一般公開と言うこと。舞台の途中ではその宣伝場面があり、そのシーンの舞台背景にはタタ・モーターズのロゴが入っていた。この車は世界で最も安価な新車価格の4ドア小型車として話題になっていた車種である。

そういった話題もあって初日公演はチケット完売になり、カーテンコールでは多くの観客が立ち上がって拍手するなど盛り上がった公演になったが、その後6月までの公演で徐々に観客数も減っていった。この作品は休憩なしで、またオペラと言ってもどちらかと言えば歌曲が並んだ作品という印象があった。そして舞台上まで延ばされた客席手すりは空間を表しているだけで、上演中に一度も使われることがなく、そのため場所によっては舞台が見えづらいなど、何か問題が感じられる演目だった。その上、他のオペラよりも公演回数が数回多かったのも集客に影響しているのかもしれない。

ザールラント州立劇場でのシューベルト「サコンタラ」は歌も綺麗で演出的にも様々なアイデアが使われており、話題になって評価も得た作品だったが、観客の立場で考えると、オペラ本来の内容と実際の舞台との距離がありすぎて、他の演目よりも印象が薄いものになっている気がした。


Sakontala

Oper in zwei Akten
Text von Johann Philipp Neumann
Musik von Franz Schubert, Rekonstruktion von Karl Aage Rasmussen

Musikalische Leitung: Christophe Hellmann
Inszenierung: Berthold Schneider
Bühnenbild: Veronika Witte
Kostüme: Doey Lüthi
Choreinstudierung: Jaume Miranda

Duschmanta: Algirdas Drevinskas
Sakontala: Elizabeth Wiles
Durwasas / Madhawia: Guido Baehr
Kanna: Hiroshi Matsui
Amusina / 1. Mädchen: Sofia Fomina
Priamwada / 2. Mädchen: Judith Braun
Fischer: Stefan Röttig
Performance-Künstler: Skall
Menaka: Elena Kochukova
Ein Dämon/1. Häscher: Timo Päch
Ein Dämon/2. Häscher: Harald Häusle


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