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2010年6月2日 州立オーケストラ、コンサート「田園」とプログラム

宣伝カー数週間前にザールラント州立劇場の来シーズン(2010/2011年シーズン)のプログラムが発表され、劇場やチケット売り場などにプログラムの冊子が置かれはじめた。今年のものは銀色で紙の質も良く、また角が丸く落とされているなど、明らかにこれまでより立派になっている印象がある。2006年に劇場総支配人がダクマー・シュリンクマンになって以来、観客動員数は毎年増えているということ。宣伝面でも力を入れているのが分かる。例えば街中に横断幕が掲げられたり、多くの看板を目にするようになった。同時にプログラムも年を追う毎に立派になっている気がする。

そして2010年5月30日(日)、31日(月)の第7回シンフォニーコンサートの直前にはオーケストラの年間プログラム冊子が配られ始めた。オーケストラだけの冊子も立派なものが作られている。劇場の冊子が銀色だったのに対し、オーケストラは金色となっている。それだけオーケストラの方に力を入れていると言うことだろうか。そして中も各楽器別の写真があったり、これまで以上に内容あるものになっている。

コンサート前日には市の中心部ザンクト・ヨハンナーマルクト(という名の広場)の角に劇場の小さな宣伝カーが置かれていた。そこには「オテロ」と「第7回シンフォニーコンサート」のポスターが貼ってあり、両演目の宣伝がされているだけなく、来シーズンのプログラム冊子なども置かれていた。これらを目にするとこの2演目は特に力が入っているように見える。

ポストカードその第7回シンフォニーコンサートは打楽器がメインのプログラムで、前半がフェラン・クルーセン(1976-)の、打楽器とオーケストラのための作品「Focs d'artifici」(「花火」の意、2008年作曲)、後半がルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』(1808年作曲、同年ウィーンにて初演)となっている。

今回私は公演2日ともチケットを求めたものの、1日目の公演、日曜日午前11時開演だったが、前半は所用で行くことが出来なかった。後半の「田園」が始まる前に会場であるコングレスハレ(会議場ホール)に到着した。1日目の座席は1階2列目中央で、2日目は1階後方の端だった。1日目は1階席の両端が空いているという状況だったが、月曜日午後8時開演の2日目公演は、2階の端の方まで埋まっているなどほぼ完売といった状況だった。

コンサートは州立オーケストラの演奏で指揮は同劇場音楽総監督のトシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)。打楽器はペーター・ザードロ(1962-)。彼はドイツを代表する打楽器奏者の一人で、1982年にはミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(当時の音楽監督はセルジュ・チェリビダッケ)のソロティンパニ奏者となり、その後1983年にはミュンヘン音楽演劇大学の教授に、1990年にはザルツブルク・モーツァルテウムの教授となった。そしてバルセロナ出身の作曲家フェラン・クルーセンはバルセロナやミュンヘン音楽演劇大学で作曲を学び、最近はペーター・ザードロと共に仕事をすることが多く、彼のために作曲をしているという。今回の「Focs d'artifici」もペーター・ザードロのために作曲された作品とのこと。

カーテンコール舞台正面、指揮者の左に鍵盤打楽器をはじめ、様々な打楽器が置かれている。オーケストラが舞台上に姿を見せて暫くしてから照明が少し暗くなった。指揮者とソロ奏者が同時に出てくるのが一般的だが、この日は指揮者カミオカだけしか姿を見せなかった。そして指揮者が指揮台に載り、軽いステップを踏むような感じで音楽が始まった。その後、舞台袖から、腰の所でスネアドラムを打ちながらザードロが入場してきた。

そしてドラムセットのところで様々な打楽器を演奏する。音色の多さだけではなく、リズムや強弱による違いなど様々な表現がそこにはある。オーケストラと合わせるのも簡単ではないだろう。何度も指揮者の方を振り返って演奏している姿が印象的だった。その打楽器の演奏にオーケストラの音色が重なってくる。オーケストラの抑えた音量と余韻が残るような打楽器の音楽は色々な情景が思い浮かぶようで、音楽の楽しさが伝わってくる演奏だった。指揮者も軽くステップを踏みながら楽しそうに指揮しているように見える。

演奏時間は18分と長くないが、その中に様々な打楽器での表現があり、観客もその一つ一つに視線が釘付けになっていたようだった。演奏後は大きな拍手とブラヴォーが出て床を蹴っている人もいる。最前列に座っていた作曲家も舞台に上がり拍手を受けている。作曲家が指揮者の両手を取って、おそらく感謝の意を述べているのだろうか、その場面が印象的だった。アンコールでは4楽章からなる打楽器のソロ作品が演奏されたが、最後は椅子や床まで叩きだし、観客から歓声や拍手が上がるようなものだった。音楽の楽しさが感じられる演奏だった。

カーテンコール休憩を挟んだ後半はベートーヴェンの「田園」。これは2日間とも聴くことが出来たが、ひと言で言えば非常に綺麗な田園だった。田園という単語の響きに相応しい優しさや柔らかさがある演奏だった。2日目は派手になるかと想像していたが、2日とも落ち着いた演奏だった。特に2日目、印象に残ったのが指揮者の音の引き出し方だ。何もないような所から音を出してくるといった印象で、まるで音を紡ぎ出してくると表現すれば良いのだろうか。この2日間の演奏でどちらかと言えば初日の方は迫力があり、2日目は優しく美しい「田園」だった。特に2日目の木の温もりある音は和やかさや心地よさが感じられる音色だった。

公演後、外に出ると強い雨が降っている。ここ最近は雨が降ったり止んだりといった落ち着かない天候が続いているが、この雨も「田園」の一つの演出のようにも思われた。


7. Sinfoniekonzert

Ferran Cruixent: "Focs d'artifici" (Schlagzeugkonzert)
Ludwig van Beethoven: Sinfonie Nr. 6 F-Dur op. 68 ("Pastorale")

Solist: Peter Sadlo, Schlagzeug
Leitung: Toshiyuki Kamioka

パンフレットとチケット

公演前のコングレスハレ

パンフレットとチケット

2日目公演前のコングレスハレ、午後8時前

来シーズンのプログラム(左が劇場、右がオーケストラ)

オーケストラの年間プログラム、楽器別の紹介

来シーズンのプログラム(左が劇場、右がオーケストラ)

オーケストラの年間プログラム、楽器別の紹介


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