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2010年4月3日 コンサート「La Traviata」

今から2シーズン前、ザールラント州立劇場の2007/08年シーズンの幕開けはヴェルディ(1813-1901)のオペラ「La Traviata」(1853年ヴェネツィア初演)だった。演出は劇場総支配人ダクマー・シュリンクマン。彼女はこれまで幾つかの演劇作品で演出を行っていたが、オペラの演出は初めてだった。劇場総支配人の演出でシーズンの幕開けと公演前は話題になっていた。しかしその演出は物足りない内容だった。オペラの持つ世界を壊すことはないが、逆に盛り上げることもなく、もう一度観てみたいと思わせるような舞台ではなかった。私も4公演観たが、最初は完売だったものが平日には観客数が少ない日もあった。演出的には何か足りないものだったからか、その演目そのものの印象もそれほど良くなかったように思われる。

その「La Traviata」が2010年4月2日(金)に再演された。当時の演出に問題があったのかどうか分からないが、今回の公演(2公演)はコンサート形式となっている。様々な新聞やニュースでもそれに関する記事を目にした。今回は主役をアルバニア人テノール、セミール・ピルギュ SAIMIR PIRGU が歌う。現在、世界のオペラ界で有名になりつつあるテノール歌手だ。彼はこれまでにメトロポリタン歌劇場やロイヤル・オペラ・ハウス・コヴェント・ガーデン、ウィーン国立歌劇場、ベルリン州立劇場、ハンブルク州立劇場、その他にチューリヒやローザンヌなどヨーロッパの代表的な歌劇場で歌っている。それゆえ彼を未来のスターテノールと説明する記事もあった。

そういえばその彼が歌うからか、チケットの価格も若干高くなっていた。ザールラント州立劇場に限らず、ドイツの他の劇場でもそうだが、スター的な人が歌う場合は数ユーロから数10ユーロ、チケットが高くなる。今回のザールラント州立劇場では約数ユーロから10ユーロ高くなっているようだった。

開演前の劇場4月2日(金)、開演の約30分前、19時過ぎに劇場を訪れてみると当日券売り場の窓口には多くの人が並んでいる。復活祭の大きな連休で予定が立っていない人もいるのだろう。また開演15分前になると、(チケットが残っている場合)全ての席が安くなるので、それを意識して訪れた人もいるのだろう。それにしても正装率が非常に高い。蝶ネクタイをしたスーツの男性だけでなく、両肩が出た真っ赤なドレスを着た女性など、観客も華やかな雰囲気になっている。特に女性は赤色の服を着た人が普段より多く見受けられた。3月最終日曜日に夏時間になり、気候的にも気分的にも明るく感じられることも影響しているだろう。そして今回の歌手などオペラ・フェスト的な雰囲気がある。

自分の席に着いてから周りを見たが、左右の端の方は空席があるが真ん中は埋まっているという印象を得た。完売ではないが、それなりに人は入っているのだろう。開演19時半を少し回ってもまだ劇場入り口のドアは開けられている。遅れてくる人がいるのだろうか。少し過ぎてから合唱やオーケストラの人が舞台上に出てきた。今回の公演はコンサート形式なので、舞台上に全ての出演者が並んでいる。劇場内の照明が少し暗くなり、開演時間を約10分過ぎたところで、指揮者のアンドレアス・ヴォルフが姿を見せた。

静かに前奏曲が始まった。以前のオペラの時の演奏(指揮は前暫定音楽監督コンスタンティン・トリンクス)は非常にストレートな演奏と言った印象があった。その演奏が頭に残っていたが、今回のヴォルフ指揮の演奏を聴いて驚いた。ピアニッシモが非常に丁寧に演奏され、そして音がしなやかになっている。無意識に鳥肌が立った。後に座る女性が美しいと声を出している。以前のトリンクス指揮の時とは音の表情が全く違っている。指揮者ヴォルフはザールラント州立劇場の第一指揮者だが、その彼によるものか、それとも現在の音楽総監督トシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)の影響か分からないが、音の表情が非常に豊かになっている。

この日の演奏は何度も鳥肌が立つ演奏だった。とにかくしなやかな音が何もない舞台を演出している。歌手陣もそれに花を添えている。中でもアルフレード・ジェルモンを歌ったピルギュ、ヴィオレッタ・ヴァレリーを歌ったアレクサンドラ・ルプチャンスキー、ジョルジョ・ジェルモン役のオラフ・シグルダーソンの3人は舞台に良い緊張感を作っていた。それ以外の歌手陣は2007/08年シーズンのプレミエ公演とほとんど同じとなっている。

カーテンコール主役の3人、特にピルギュは楽譜を持たずに暗譜で歌っていた。最近この役を歌うことが多いので、頭に入っているのだろう。コンサート形式にもかかわらず、譜面台の側で演技をしていた。ヴィオレッタのルプチャンスキーはこの劇場でのプレミエ公演でも同役を歌った。中音域の豊かさは素晴らしく見た目的にも華がある。シグルダーソンもコンサート形式にもかかわらず緊張感ある父親像を作っていた。指揮者を挟んだ左にアルフレードとヴィオレッタが立ち、右側にジェルモンが立つ。指揮者を挟んだ目線だけの迫真の演技を見ていると、指揮者を押しのけて本当に手を挙げそうな勢いが感じられた。

歌手陣の歌には、様々な表情だけでなく勢いがあった。観客にもそれが伝わりアリアのあとには長く大きなブラヴォーが飛んだ。前半の最後でも演奏が終わらないうちから大きな拍手が劇場を包み込んでいた。

今回のコンサート形式の演奏を見ていると、この歌手陣で舞台形式のオペラを観てみたいと感じさせるものがあった。しかしそのただ立っているコンサート形式でも、様々な表情があり、まるで舞台形式を見ているような楽しさがあった。今回のこのオペラは大成功と言って良い演奏だろう。

カーテンコールでは観客総立ちになり、拍手とブラヴォーが飛ぶ。公演が終わったあとも、観客の多くが良かった、美しかった、もう一度観てみたい等、興奮しながら話して出口に向かっている人が多かった。観客の表情も非常に嬉しそうである。そういえば劇場入り口には劇場の月間予定表や一部の演目のポストカード、劇場の年間プログラムなどが置かれているが、多くの人がそれを求めていた。劇場の演目などに興味を持った人がそれだけ多かったのだろう。言い換えれば、この日の演奏に満足した人が多かったということだろう。


La Traviata

Oper in drei Akten
Text von Francesco Maria Piave nach dem Roman «La dame aux camélias» von A. Dumas
Musik von Giuseppe Verdi

Konzertante Aufführungen

Musikalische Leitung: Andreas Wolf

Violetta Valéry: Alexandra Lubchansky
Flora Bervoix: Maria Pawlus
Annina: Elena Kochukova
Alfredo Germont: Saimir Pirgu
Giorgio Germont: Olafur Sigurdarson
Gastone: Rupprecht Braun
Barone Douphol: Stefan Röttig
Marchese d´Obigny: Vadim Volkov
Dottore Grenvil: Hiroshi Matsui
Ein Kommissionär: Antoniy Ganev

Opernchor des Saarländischen Staatstheaters


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