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2010年1月3日 州立オーケストラ「ニューイヤーコンサート」

開演前それまで寒い日が続いていたが、昨年末より気温が少し暖かくなり、年が変わった2010年1月1日(金)は最低気温もプラス2度ほどと過ごしやすい年末年始だった。その1月1日、ドイツでは祝日だが、この日多くの場所でニューイヤーコンサートが開かれた。テレビのスイッチを入れると恒例のウィーンのニューイヤーコンサートが放送されている。シュトラウス一家の作品が多く、明るく楽しそうな音楽が新年の雰囲気を盛り上げている。

その1月1日(金)、ザールラント州立劇場でもザールラント州立オーケストラによるニューイヤーコンサートが催された。指揮は同劇場音楽総監督のトシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)。数日前にチケット売り場を覗くと既に完売の文字があったので半ば諦めていたが、前日の大晦日にもう一度訪れると、来られない人がいたのか残りチケットが2枚あると言う。それを求めて翌1月1日のコンサートを訪れた(劇場正面には単に「コンサート」とだけしか書かれていなかった)。

コンサートは18時開演。その15分ほど前に劇場に着いたが当日券売り場には多くの行列が出来ている。しかし掲示板には「チケット完売」の文字が出ている。キャンセルでチケットの買える可能性があるからだろう。ところで2009/10年シーズンから音楽総監督がカミオカになってから、これまで公演数が少ないにもかかわらず、劇場やホールで日本人の数を目にする回数も多くなってきた。この日、劇場にいた日本人の数は最低でも10人はいただろう。

ザールラント州立オーケストラによるニューイヤーコンサートはヨハン・シュトラウス2世(1825-1899)とヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)の作品が演奏された。具体的には前半がヨハン・シュトラウスのオペレッタ「ジプシー男爵」序曲(1885年初演)、同ワルツ「北海の絵」(1880)、ヨーゼフ・シュトラウスのポルカ「遠くから」、ヨハン・シュトラウスのポルカ・シュネル「百発百中」(1868)、ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「うわごと」、同ポルカ・シュネル「憂いもなく」の計6作品。

カーテンコール休憩を挟み、後半がヨハン・シュトラウスのポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」(1869)、ヨーゼフ・シュトラウスのポルカ「燃える恋」、ヨハン・シュトラウスのワルツ「南国のバラ」(1880)、同 トリッチ・トラッチ・ポルカ(1858)、ヨハン及びヨーゼフ・シュトラウス「ピツィカート・ポルカ」(1869)、ヨハン・シュトラウスのオペラ「騎士パズマン」チャルダーシュ(1892)、ヨハン・シュトラウスの狂乱のポルカの計7作品というプログラムだった。アンコールはオペレッタ「こうもり」(1874)から、そして最後にポルカ・シュネル「雷鳴と電光」(1868)が演奏された。このプログラムの組み方はテンポの速いもの遅いものを交互にしており、聴いている方も飽きが来ない。そしてその分、それぞれの作品の持つテンポが効果的で、その作品の世界に浸ることが出来た。また前半で「北海の絵」、後半に「南国のバラ」と対になったプログラムも面白い。

演奏の方は指揮者カミオカとオーケストラの生み出す音が心地良い。カミオカの指揮はオケの大きな音を要求するときはその動きが大きくなり、時には指揮台の上で踊っているようにも見える。そして彼の表情はいつも笑顔といった印象がある。それがオケにも伝わり演奏する楽しさのようなものが感じられ、更にそれが観客にも伝わってくる。

カミオカの指揮はまるで音の花を咲かせるようなもので、例えばステージの左からポッと花が咲いたかと思うと、右側でもポッと花が咲く。小さな明るい花の時もあれば、流れを伴った大きな花畑といった感覚を覚えるときもある。プログラム的にも演奏的にも飽きが来ないコンサートだった。そう言えばオーケストラは舞台上で演奏しており、ホールの反響などが少なく生の音がそのまま前から飛んでくるといった感じだったが、それが音に迫力と臨場感を与えていたように思われる。

カーテンコールアンコールの1曲目が終わって観客が拍手で盛り上がっているときに、指揮者カミオカはそれを抑えるようにして、何処か疲れたような、しかし笑顔で「あけましておめでとうございます!」といった挨拶(ドイツ語で)をした。続けて「雷鳴と電光」の演奏が始まった。指揮者は観客の方にも振り向き、手拍子の合図を送っている。観客の手拍子は単に手を合わせただけというよりは、生き生きとした何処か活力が感じられるもので、観客もその音楽の一つになっていると感じられた。最後を上手くまとめて演奏が終わったとき、幾つものブラヴォーと共に、多くの観客が一斉に立ち上がった。前の人が立ったから仕方なく立つというものではなく、立って拍手をしたいというような熱気があり、また観客のその拍手も、みんなで合わせたいというような雰囲気があった。観客が一体となった非常に早い手拍子の拍手が劇場を包み込んでいる。その中をカミオカが笑顔で挨拶をしている。

そういえば曲が終わる毎に指揮者とオーケストラは挨拶をしていたが、指揮者は毎回指揮台の上で挨拶をするのではなくて、時には指揮台の後に降りて挨拶をしていた。それはオーケストラを讃えるようなもので、みんなで一つの音楽を作っていくカミオカらしいものかも知れない。彼の指揮を見ていると、彼が音楽を作っているというよりは、彼自身もその音の中にあるように感じられる。演奏の上手い下手ではなく、音楽の楽しさや音楽に対する深い想いが感じられ、音の中に様々な世界が見える。私自身だけが感じたことかも知れないが、それがこの指揮者の魅力だろう。

カーテンコールは先にも書いたが、非常に盛り上がるものだった。新聞の批評にもそれについて触れられており、それは新年の良いスタートと締めくくられてあった。私だけでなく多くの人が今シーズンの演目を楽しみにしていることだろう。

公演後、劇場の横を歩くと雪がちらつく中、日本人の人たちが出待ちをしている。おそらく指揮者カミオカだろう。そこにいた人たち全員に聞いたわけではないが、この公演のために日本から来られた方が何人かおられた。正直なところ驚きでもあったが、ザールラント州立劇場の名前がそこまで知られるようになったは嬉しいことでもある。指揮者トシユキ・カミオカがザールラント州立劇場の音楽総監督になったのは今シーズンから。きっとこれから更に色々なところで彼や劇場の名前を目にすることになるだろう。その点でも今シーズン以降、非常に楽しみである。


ポスター

ニューイヤーコンサートのポスター

パンフレットとチケット

指揮者にサインしていただいたパンフレットとチケット


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