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2009年12月28日 オペラ「ヘンゼルとグレーテル」

開演前の劇場正面ザールラント州立劇場2009/10シーズンから音楽総監督にトシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)が就いてから、まだ一度もオペラを振っていないので、彼は未だ劇場の顔になっていない感があった。しかし先日のシンフォニー・コンサートは大成功といって良い公演で、そのときにオーケストラの顔になっているといった印象を得たので、彼が音楽総監督として初めて振るオペラも個人的には期待が高かった。

彼がザールラント州立劇場で初めて振るオペラはフンパーディンク(1854-1921)「ヘンゼルとグレーテル」(1893年ドイツ・ヴァイマールにて初演)だ。どちらかと言えばクリスマスの時期に子供向きに上演されることが多い作品である。何故この作品が彼の最初の作品なのだろうか。新聞などによれば、彼が最も好きなオペラ作品がこの作品ということ。数日前にチケット売り場を覗いたが、既に完売になっていた。

プレミエ公演(ドイツ語上演、フランス語字幕)は12月19日(土)。前日にも窓口を訪れたが相変わらず完売になっている。そこで当日、当日券の窓口が開く開演一時間前に劇場を訪れた。この日はちょうど雪で辺り一面真っ白な世界となっている。突然の寒波がヨーロッパを横断し、ザールブリュッケンでも最低気温がマイナス19度と冷え込んだ。交通機関にも多大な影響が出ているこういった天候なので、もしかするとキャンセルが出ているかも知れない。

劇場には同じように考えた人がいるのか、自分以外にも数人窓口にいた。窓口で伺うと4枚残っているという。そこで正面の席を購入した。窓口での様子を暫く見ていたが、開演前には長蛇の列になっている。キャンセル待ちが多いようだった。劇場に入るとお菓子の家などが置かれてあり、この演目らしい雰囲気を作っていた。

お菓子の家19時30分の開演少し前に自分の席に着いた。客席を見ると日本人らしき姿も見える。音楽総監督がカミオカになり、この劇場を訪れる日本人も今後増えていくかも知れない。また子供向きの作品なので子供連れが多く、劇場内には子供の声も聞こえていた。

19時30分を少し過ぎて照明が落ち、指揮者カミオカがオーケストラピットに姿を現した。自分が座っている席からは見えないが、劇場内に響く拍手がそれを伝えていた。

ところでこの作品の演出はアンドレアス・ゲルゲン。彼は2005/06年シーズンのクリスマスにザールラント州立劇場で初演を迎えたモーツァルト「魔笛」を演出した。この作品は、新聞などでも「絶対に観るべし」と書かれるほどに演出が綺麗なものだった。メルヘンが感じられるもので観ていて飽きないものだった。その彼が今回「ヘンゼルとグレーテル」を演出するので舞台的にも非常に楽しみな作品だった。

今回の作品の舞台は家の中、子供がいる部屋となっている。そしてその子供がこの作品の鍵を握っており、この子供の視点で舞台が動いていく。そこにニュースで騒がれている誘拐犯がやってくる。この誘拐犯がメルヘンの世界では魔女になっている。子供部屋の窓からヘンゼルとグレーテルが部屋に迷い込んできたり、室内の大きな物置から彼らのお母さんが出てきたりと、現在の子供がいる世界が徐々にメルヘンになっていくといった感じだ。舞台途中、天井からは大きな木が降りてきたり、巨大なカタツムリが部屋の中、そのときは森という設定だが、床の上を這っていたりする。

そしてミラーボールなどでキラキラした世界を作りだし、特に前半は演出的にも成功だったと言える。演出の好みは人それぞれなので、良い悪いは言えないが、前半のそのメルヘン的なものに対し、後半はどこか現代的なものだったのが、個人的には残念だった。というのは、お菓子の家が、風船で大きく膨らんだポップコーンやフライドポテトで、メルヘン的な雰囲気が全く感じられないものだった。しかも演奏中に徐々に膨らんでいくので、それが気になって音楽に集中できないものがあった。

音楽の方は、作曲家フンパーディンクとヴァーグナーの関係を思い起こさせるようなもので、ヴァーグナー的な音楽が前面に出ていた。これまでドイツの幾つかの劇場でこの作品を観たが、ここまでヴァーグナーを感じさせるような演奏は一度もなかった。カミオカの指揮によってこのオペラの持つ美しさを知ったと言えるだろう。カミオカの指揮は、同じ演目でも毎回違っていた。例えば歌手にもっと要求しているときは、その分、大きな動きとなる。歌手陣にとっては、カミオカと作品を作るのは今回の演目が初めてなので、今後経験を積んでいけば、さらに良くなっていくだろう。

プレミエパーティー「ヘンゼルとグレーテル」、12月だけで運良く3回観ることが出来た。どの公演も完売になっている。演目だけでなく、ザールラント州立劇場の音楽総監督カミオカが初めて同劇場でオペラを振るといった話題や期待もそこにはあるのかも知れない。公演の方は大成功と言ってものだった。プレミエ公演時のカーテンコールの際、演出家にもブラヴォーが飛んでいた。カーテンコールのブラヴォーという声や手拍子のように揃った観客の拍手が公演の成功を物語っていた。

ところでこの劇場のプレミエ公演が終わった後、出演者だけでなく観客も参加できるパーティーがある。企業などがスポンサーについている公演では食べ物や飲み物が無料で振る舞われることもあり、そういったスポンサーが付いていない場合でも有料、もしくは一部有料で食べ物などが出される。パーティーは劇場総支配人ダクマー・シュリンクマンが挨拶をし、出演者を皆に紹介していくだけで、その挨拶は10分も続かない。あとは日付が変わるまで、そこで立食パーティーのようなものがなされる。このときは出演者に話しかけるのも自由な時間となっている。

「ヘンゼルとグレーテル」ではザールラント州の文化大臣なども出席しており、劇場総支配人や音楽総監督は挨拶に忙しそうな雰囲気があった。その中でも、指揮者に一言挨拶できたのは、私にとっても一つの良い思い出になるかも知れない。音楽総監督カミオカの元、ザールラント州立劇場が動き出した。そう感じた夜だった。


ポスター

「ヘンゼルとグレーテル」のポスター

パンフレットとチケット

パンフレットとチケット

 

 

Hänsel und Gretel

Musikalische Leitung: Toshiyuki Kamioka
Inszenierung: Andreas Gergen
Bühnenbild und Kostüme: Stephan Prattes

Peter: Guido Baehr / Stefan Röttig
Gertrud: Maria Pawlus / Katrin Gerstenberger
Hänsel: Judith Braun / Sabrina Kögel
Gretel: Sofia Fomina / Elizabeth Wiles
Knusperhexe: Rupprecht Braun
Sandmännchen/Taumännchen: Sabine von Blohn / Marie Smolka
Kinderchor des Saarländischen Staatstheaters


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