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2009年11月17日 オペラ「ローエングリン」ルクセンブルク公演

ルクセンブルクの街並みザールラント州の隣、ルクセンブルク公国の首都ルクセンブルクへはザールブリュッケンからバスで約1時間半ほどで行くことが出来る。そのルクセンブルクの劇場で、ザールラント州立劇場の引っ越し公演があった。演目は先日ザールラント州立劇場で上演されたリヒャルト・ヴァーグナー「ローエングリン」である。

指揮は同劇場での指揮と同じく、コンスタンティン・トリンクス。ザールラント州立劇場での2公演の後にルクセンブルク公演があるというのは、言ってみればザールラント州立劇場での再演が先シーズンの思いだしを兼ねた公演で、本番がルクセンブルクという見方も出来るかも知れない。というのは歌手陣がルクセンブルクの方はより世界的に名前が知られた人物になっている。

チケットの状況を見ていると、最初は売れ行きがそれほど良くないと感じていたものの、公演が近づくと両公演(11月11日水曜日、11月14日土曜日)とも完売になっていた。2日目の公演が土曜日だったので、その日のチケットだけ購入してルクセンブルクを訪れた。

11月14日(土)、ザールブリュッケンからバスに乗ってルクセンブルクを訪れた。紅葉の時期を少し過ぎた感があったが、谷の所の紅葉は色とりどりで、それはその上の重厚な街並みや橋を彩っていた。17時の開演までは約1時間あったので、半時間ほど街中を散策した。隣の国でドイツらしい面も見られるルクセンブルクの街並みはしっとりと落ち着いており、もう少しここを歩きたいと思わせる街並みだった。

開演の30分ほど前に劇場を訪れると、既に多くの人がいる。チケット売り場を覗いてみると、完売だったにもかかわらず何枚か出ているようだった。もしかすると直前までに取りに来ていない人がいたのだろうか。ザールラント州立劇場の同公演でも日本人の姿が見られたが、ルクセンブルクではそれ以上の日本人の姿を目にした。壁に貼られた新聞

ホールの方に足を運ぶと、壁に大きく新聞が貼られていた。それは「ローエングリン」の批評でドイツ語とフランス語の新聞がある。ドイツ語のそれを読んでみると、かなり良いことが書かれている。先に行われた11日の公演が大成功だったのだろう。

ホール内の自分の席に着いた。この劇場は扇形のようなホールで何処の場所からでも舞台がよく見える。周りではドイツ語とフランス語が聞こえていた。ルクセンブルクの公用語はフランス語だが、ドイツ語も通じ、またその地理からドイツとの文化的な距離も近くドイツ語を話す人も多いという。開演前の「携帯の電源をお切り下さい」というアナウンスもドイツ語とフランス語で行われた。そして17時の開演を少し過ぎてからホールの照明が落ちた。

指揮者トリンクスが姿を見せる。それほど大きくない拍手があって演奏が始まった。まずこのホールの音響の良さに驚いた。聞けば数年前に大改装したらしい。その成果が出ているのだろうか。耳に届く音は各パートの音までよく聞こえる。そして音が柔らかい。ザールラント州立劇場のパルケット(一階席)は舞台より少し低い位置にあるが、ルクセンブルクのこのホールは舞台より客席の方が高く、舞台の奥まで見える。その座席の高さが音の良さに繋がっているのかも知れない。

歌手陣はフリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵を歌うオラフ・シグルダーソンとオルトルートを歌うミヒャエラ・シュスターは先のザールラント州立劇場での公演と同じで、良い緊張感を舞台にもたらすだろう。オルトルートのシュスターは同じ時期、バイエルン州立歌劇場(指揮ケント・ナガノ)でも同じ役を歌っているので、その役を歌い慣れているかも知れない。

またローエングリンはペーター・ザイフェルト、エルザ・フォン・ブラバントはペトラ・マリア・シュニッツァー。この二人はバイロイト音楽祭でも活躍しているヴァーグナー歌手である。何より彼らは実生活でも夫婦なので息のあった歌を聴くことが出来るに違いない。

パンフレットとチケットトリンクスの指揮はザールラント州立劇場の一日目ほどゆっくりには感じなかったが、落ち着いた丁寧な演奏だった。そして音の迫力も、このホールならではなのか、迫ってくるような迫力がオーケストラや合唱の演奏にあった。それを示すように第一幕が終わり、照明が点きオケの人たちもオーケストラピットを後にしているにもかかわらず長い拍手があった。それだけ演奏に興奮している人が多かったのだろう。

第三幕が始まる前は、トリンクスが姿を見せると幾つもブラヴォーが飛んだ。それで更に調子が上がったのか、第三幕の前奏曲ではうねるような音楽を聴くことが出来た。隣に座っていたフランス語を話していた年配の女性はそのメロディーを一緒に口ずさんでいる。歌手陣、先の4人は特に印象に残った。テルラムントとオルトルートは舞台に良い緊張感をもたらし、ローエングリンとエルザも華があり、舞台的にも見応えがあるものだった。特にローエングリンとエルザのそれぞれの演技は非常に細かい。それぞれの役を長年歌ってきた経験などにも因るところがあるのだろう。

オーケストラや合唱の演奏も非常にまとまっており、完成度の高い公演だった。この日の公演では何度も鳥肌が立った。それだけ身体の方が感動していたのかも知れない。特に第三幕での迫力ある演奏は聴衆に強い感動をもたらしたに違いない。ここ最近聴いた中では最も躍動感や勢いがあり、また作品「ローエングリン」の持つ美の世界観が強く感じられる演奏だった。

カーテンコールでもその熱気は続いたままだった。演奏から受け取った気持ちをそのまま返したというような、早い手拍子の拍手で大きなブラヴォーが幾つも飛んでいた。床を蹴っている人も多い。間違いなく成功した公演といって良いものだろう。引っ越し公演は演奏者にとっても緊張感があり、また舞台の移動など色々と大変な面もあると思われるが、こういった公演をできたのは良い経験であるに違いない。また公演後、出口に向かう観客も興奮しており、観客にとっても良い公演だったのは間違いないことだろう。


Lohengrin

Musikalische Leitung Constantin Trinks - Inszenierung Michael Sturm - Bühnenbild und Kostüme Stefan Rieckhoff - Chöre Pablo Assante - Szenische und choreographische Mitarbeit Bert Bunk - Dramaturgie Berthold Schneider
König Heinrich Christof Fischesser - Lohengrin Peter Seiffert - Elsa von Brabant Petra Maria Schnitzer - Friedrich von Telramund Olafur Sigurdarson - Ortrud Michaela Schuster - Der Heerrufer des Königs Stefan Röttig
Orchester Saarländisches Staatsorchester - Opernchor, Extrachor und Statisterie des Saarländischen Staatstheaters, Kammerensemble Püttlingen
Produktion Saarländisches Staatstheater Saarbrücken


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