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2009年9月28日 バレエ「白鳥の湖」

休憩中随分久しぶりだ。自分ではそれほど間が空いているとは感じていなかったが、前回、ザールラント州立劇場で観たバレエが「くるみ割り人形」で、それは昨年11月。自分ではもっと観ていると思っていたが、約10ヶ月ぶりのバレエ観劇となった。演目は「白鳥の湖 Schwanensee - Aufgetaucht」。

この作品は先シーズン2009年3月にプレミエを迎えた。しかし同劇場での「白鳥の湖」は、一般的なそれとは少し違っているということ。音楽的にも基本はチャイコフスキー(1840-1893)の「白鳥の湖」(1877年モスクワにて初演)だが、作曲者の所にチャイコフスキーだけでなく、Sam AuingerとClaas Willekeという人物の名前がある。パンフレットを見てみると彼らはそれぞれベルリン芸術大学の客員教授と、ザールラント音楽大学の教授ということ。またそこにはザールラント州立劇場のバレエ部門であるドンロン・ダンス・カンパニーと彼ら作曲家2人は幾つかの演目で共同制作したとあった。

2009年9月27日(日)の公演は午後5時から。この日は気温が25度近くまで上がり久しぶりに暑い一日だった。開演15分ほど前に劇場に着いたが、バレエでしかも日曜の夕方とあって、カジュアルな格好の人が多い。チケット売り場を見てみると完売になっている。そうだ!思い出した。これまで何度かバレエを観ようと思ったが、自分にとって都合の良い日はいつも完売だった。曜日などにもよるがバレエは完売になることが多い。

指揮は第二指揮者のクリストフェ・ヘルマン。昨シーズンまでは暫定音楽総監督コンスタンティン・トリンクスと第二指揮者ヘルマンしかいなかったので、ヘルマンはバレエやオペラで多くの演目を振っていたが、今年は音楽総監督、第一、第二指揮者と揃ったので、ヘルマンが指揮する作品は随分と減った。予定されているのは、今回のバレエとオペラ「Das Buch der Unruhe」(Michel van der Aa作曲)と「シャコンタラ」(シューベルト作曲)である。

午後5時過ぎになって舞台が始まった。振付はドンロン・ダンス・カンパニー主宰者のマルゲリッテ・ドンロン。緞帳が開くと舞台奥には映像が映されている。どうやら映像も使った作品のよう。音楽はチャイコフスキーのものが州立オーケストラによって演奏されているが、所々で別の作品(録音)になった。それらはヒーリング系のベルを使ったものやテクノ系の電子音楽だった。それほど違和感なく舞台に溶け込んでいるだけでなく、演奏や舞台世界のコントラストを上手く作りだしていた。ヘルマンの指揮も安定していて、豊かな情景を演出している。そういえばオケの音量などから想像すると、本来よりは編成が小さいのかも知れない。

パンフレットとチケット踊りの方はクラシックバレエの格式などを取り払ったモダンなバレエであった。現在、ザールラント州立劇場のバレエはモダンバレエである。つまりクラシックバレエの「白鳥の湖」で見られるようなものが、ザールブリュッケンのドンロン版ではないということ。例えばオデットとオディールはそれぞれ別の人が踊り、物語の最後はオデットだけが亡くなり、ジークフリートが残る悲劇で終わるというものだった。

またクラシックバレエの「白鳥の湖」のような音楽的な迫力やダイナミックさがなかったので、ドンロン版「白鳥の湖」は、印象としては、チャイコフスキーの「白鳥の湖」の音楽要素を採り入れ、そのストーリーを元にした別の表現といった感じだ。

ところでこういったストーリーがよく知られた作品において、踊りで感情などを表現するのは難しいことだろう。オペラのような声や言語を持たないので、身体で表現しなければならないが、このドンロン版「白鳥の湖」は話を全く知らない状態で観劇しても、おそらくそのストーリーを理解できるだろう。それほどに分かりやすいものだった。それだけダンサーの顔の表情や身体の動きなど演技力があったのだろう。

公演後のカーテンコールでは、観客の拍手のリズムがぴったりあって手拍子のような大きな拍手で、ブラヴォーも飛んでいた。その上、観客の中に若い人も多いせいか、ブラヴォーの代わりに「オゥオゥオゥオゥ~」や「ヒョウヒョウ~」と黄色い声援を送っている人たちもいた。クラシックバレエの「白鳥の湖」からすると出演する人数的にも大きな差があり、比較してしまうとその分スケールに欠ける感がするが、それでも一つの物語として観れば、表情豊かな作品だったと言える。今後もこのような有名作品のドンロン版が上演されるだろう。別の角度から見た物語、それもまた楽しみである。


Schwanensee - Aufgetaucht

Konzept und Choreografie: Marguerite Donlon
Musikalische Leitung: Christophe Hellmann
Bühnenbild: Cécile Bouchier
Kostüme: Nicole Maas
Licht: Sascha Ertel
Dramaturgie: Christoph Gaiser

Es spielt das Saarländische Staatsorchester

Odette: Youn Hui Jeon / Meritxell Aumedes Molinero
Odile: Meritxell Aumedes Molinero / Youn Hui Jeon
Mutter: Liliana Barros
Siegfried: Alfredo García González / Takayuki Shiraishi
Benno: Taesug Kang
Rothbart: Lionel Droguet / Pascal Séraline
Siegfried als Teenager: Nigel Campbell


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