Homeザールブリュッケンでの日記 > オペラ「セビリアの理髪師」

2009年02月10日 オペラ「セビリアの理髪師」

ザールラント州立劇場のオペラ演目において2008/09年シーズンで個人的に最も楽しみにしていた演目がジョアキーノ・ロッシーニ(1792-1868)の「セビリアの理髪師」(初演は1816年2月20日ローマにて)だった。楽しみにしていた点は2つ。一つ目は厳しい音楽作りをする指揮者ヴィル・フンブルクの演奏。もう一つは劇場総支配人ダグマー・シュリンクマンの演出。

指揮者フンブルク、昨シーズンの演目「Eis und Stahl(氷と鋼鉄)」で非常に熱量の高い演奏を見せてくれただけでなく、彼自身これまでにCDで「セビリアの理髪師」を発表しているなど、同作品をよく知っていると思われる。対するシュリンクマンは先シーズン、ヴェルディ「La Traviata」を演出した。彼女にとって初めてのオペラ演出となった同作品は、結果を見れば話題だけで終わってしまった感がある。演出、例えば主要人物の動きは2005年ザルツブルク音楽祭のデッカー演出のものを多いに参考したとも思われるようなもので、また舞台セットも最初から最後まで変わらず、極端に言ってみれば演奏会形式のオペラといった印象を受けた。

初日公演前の劇場ただその後、彼女が演出した演劇、シェークスピア「真夏の夜の夢」は色々な動きもあって楽しめるものだった。彼女はこれまで自身の専門分野である演劇に力を入れており、演劇の演出家としても幾つか作品を手がけているので、真面目なオペラではなくコミカルなものなら上手く演出できるのではないかと思われた。フンブルクの指揮に対する期待と、シュリンクマンの演出に対する不安、それらを抱きながら初日公演を訪れた。

2008年12月6日(土)の初日公演、19時30分の開演少し前に劇場に着いた。入り口に入って一番最初に視線を向ける先は、大抵、チケット売り場の窓口だ。人が並んでいるか、完売の表示が出ているかなど。同時期のオペレッタ「メリー・ウィドウ」が初日でも完売していなかったので、この「セビリアの理髪師」(イタリア語上演、ドイツ語字幕)も同じように完売しないのではないかと思われたが、窓口にある看板では、どのカテゴリーも完売になっている。それにもかかわらず窓口前にはチケットを求める人の列が続いていた。そう言えば自分が前日購入したチケットも最上階の一番端だったことを考えれば、このチケットの売れ行きも納得が出来る。

パンフレットとチケットロッシーニ「セビリアの理髪師」は現在、最も人気のあるオペラ作品の一つだろう。色々な劇場で色々な演出で上演されているだけでなく、有名なアリアも幾つかあり、非常に馴染み深い作品となっている。楽しみにしてる観客も多いだろう。しかしそれだけに厳しい視線を持った人も多いと思われる。自身も、有名で一般的な作品と言うことで、それほど大きく何かを期待せずに劇場を訪れた。

ふたを開けてみれば、客席からは大きな笑いが何度も起こる非常に良く作られた作品だった。指揮者が声を出す場面などがあることを意識すると、おそらく指揮者フンブルクが演出にも貢献しているのだろう。そして歌手陣。歌だけでなくそれぞの演技に存在感があった。何より舞台に飽きが来ない。作品が非常に上手く作られている。それを表すかのように公演後も大きなブラヴォーと拍手が出ていた。この作品は何度も観たくなる作品だと言える。その後の公演のチケット売り上げも良いようだ。

その後2009年1月、家の方に定期購読しているオペラ雑誌「Opernwelt」が送られてきたが、その中の批評でもよく書かれている。珍しい作品であるならば批評が書かれることも多いと思われるが、こういった有名な作品の批評が書かれていると言うことは、それだけ印象に残るものだったのだろう。また同時にロッシーニが後世までその名前を残したのが納得できる。音の中に既に演出が含まれている。今回のザールラント州立劇場での演出は、その演出を上手く引き出しているとも言える。

ところで「オペラを楽しむ」とひと言で言っても、そこには色々な意味が含まれる。アリアを楽しみにすることもあれば、悲劇の内容を楽しむということもある。しかしこのオペラは、「オペラを楽しむ」と言うだけでなく、「オペラで楽しむ」と言えるものかも知れない。オペラを観た後に楽しい気持ちで劇場をあとに来出る作品、この作品はまさしくそういったものだ。今シーズン、これまで4公演、自身も劇場を訪れたが、何度でも足を運びたくなるような魅力がある。内容が分かっていても楽しめるということは、作品本来の面白さだけでなく、歌手陣を初めとする演奏、そして演出の良さが挙げられるだろう。可能ならば来シーズン以降も繰り返し上演されるような、この劇場ならではの作品となって欲しいものである。


配役

Der Barbier von Sevilla

Oper von Gioacchino Rossini
Text von Cesare Sterbini

Premiere: Samstag, 6. Dezember 2008 im Staatstheater

Musikalische Leitung: Will Humburg
Inszenierung: Dagmar Schlingmann
Bühnenbild: Sabine Mader
Kostüme: Inge Medert
Choreinstudierung: Pablo Assante
Dramaturgie: Christoph Gaiser

Besetzung:
Graf Almaviva Algirdas Drevinskas
Figaro Guido Baehr / Stefan Röttig
Bartolo Jiri Sulzenko
Rosina Sofia Fomina / Elizabeth Wiles
Don Basilio Hiroshi Matsui
Fiorillo Rupprecht Braun / Otto Daubner
Ambrosio Elmar Böhler / Manfred Rammel
Marzelline Judith Braun / Maria Pawlus
Ein Offizier Alto Betz / Sung-Woo Kim
Ein Notar


▲ページの最初に戻る