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2008年10月18日 オペレッタ「メリー・ウィドウ」

わけもなく良い公演というものがある。今回のオペレッタ「メリー・ウィドウ」がそうだった。1905年12月28日(30日という記載も目にする)ウィーンで初演されたフランツ・レハール(1870-1948)の「メリー・ウィドウ(独:Die lustige Witwe)」が2008年10月17日(金)、ザールラント州立劇場で初日を迎えた(ドイツ語上演、フランス語字幕)。

初日公演が始まる前の劇場前「メリー・ウィドウ」は非常に有名な作品なので、細かいあらすじ等、予習せずに劇場を訪れた。一般的にも知られた馴染みのあるオペレッタであり、また例えば上演中の「Der erste Kaiser」に比べると聴きやすいので、チケットも完売になると予想していたが、公演初日にもかかわらず、どの座席のカテゴリーもチケットは残っていた。

劇場を訪れたのは19時30分開演の少し前。既に陽は沈み、暗闇が空を覆っている。夏の時期なら、明るい中、外で多くの人が公演前の時間を過ごしているが、今の時期では風も冷たく、ほとんどの人が劇場内に入っていた。

今回の作品、指揮は劇場第二指揮者のクリストフェ・ヘルマン。おそらくこういった作品の指揮ならば、彼らしい演奏を聴けるに違いない。ところで、この公演の数日前に一般公開練習があった。衣装はまだ付けていないものの、舞台セットはほぼ完成したものである。練習と言っても、公演数日前なので、止められることなく通しで行われ、本番に近い状態のものであった。しかしその公開練習の時は舞台転換も上手くいかず、また演奏にもムラがあるなど、明らかに「練習」だった。

ところで「Der erste Kaiser」は今まで聴いたことのない作品だったので不安もあったが、「メリー・ウィドウ」は知った作品であり、作品に対する不安はない。しかし言い換えれば大きな期待もそこにはない。しかもオペレッタなので聴く方も肩の力を抜いて観ることが出来る。そういった少しさめた気持ちがどこかにあったのかも知れない。それほど期待せず舞台を観ていたにもかかわらず、公演初日は非常に良い舞台だった。公開練習の時に不手際が感じられた舞台転換も問題なく進んだ。その舞台転換の間、緞帳は閉まり劇場内の照明も落ちている。暗い中で観客はただ座って待っていなければならない。時間は数分間あるが、その状態ではそれが何倍にも長く感じられるだけでなく、それまで感じていたリズムも途切れる。しかしこの日の公演ではその間にオーケストラの演奏を入れ、客に待たせる印象を与えなかった。

そういえば緞帳が閉まり、舞台の上で舞台転換がなされている音が客席まで届いていたが、ゴトンゴトンと何かを引きずる音だけではなく、何かを落としたような大きな音が響いた。何やら時間に追われている大変さが伺える。そういったものがあったからか、緞帳が開いたときには、客席の中から拍手が出た。こういった光景は珍しいが、それだけ観客の気持ちも切れずに舞台に向いていたのだろう。

パンフレットとチケット多くの観客にとってこの作品は満足行くものだったに違いない。公演後のカーテンコールも大いに盛り上がったものになった。中でも演出家が出てきたときにはブラヴォーが幾つも飛んでいた。ただ個人的に感じたのは、この演出はオペレッタというより、演劇に近いという印象を得た。喋りの部分が多く、音楽がその間に入るといった感じだ。しかも合唱の人も踊りながら、正確にはワルツでくるくる回りながら歌っているので、歌的なものを少し無視した演出だった。

また衣装なども非常に綺麗に作られ、歌よりも見た目を意識した舞台になっているのが伺える。それ故、合唱が後部で座って歌うときなどは指揮者が上手く見えないのではないかと思ったが、果たしてオーケストラの演奏とは明らかにズレがある演奏だった。そういった細かいところが気になりながらも、この日の公演は個人的にも非常に良いものだった。

それは歌手陣を始め、役者によるところがあるのかも知れない。歌手陣などがそれぞれ持っているキャラクターもあるだろうが、時には可笑しく、時には切なく非常に上手く演じている。その点でもこの作品は演劇的だったとも言える。それが客にも好意的に伝わっている。ただこの演目はキャストが2つあるので、もう一方の人たちが歌う日は別の印象を感じる可能性もある。

いずれにしてもこの作品、大晦日前に初演されたと言うことは、ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」と同じような位置づけにあるのかも知れない。親しみやすい音楽や年末年始のお祭り的な気分など観客も楽しめる作品である。次回の公演は、もっと肩の力を抜いて舞台を楽しみたいと思う。

追記

公演2日目は第2キャストの人たちがメインになった。音楽的には成功した公演だったが、演劇的に見れば少し盛り上がりに欠ける公演だった。それらは歌手陣それぞれのキャラクターに寄るところがあるかも知れない。真面目といった雰囲気があり、一般的に観客から笑いが起こるような場面でも、観客の反応はほとんどなく、舞台上が何処か空回りしている印象だった。楽しいオペレッタは、本来、観客も大いに笑ったり、舞台と観客が一つになったような感覚があるが、この日の公演は、それがなく、舞台と客席の間に大きな距離があった。ただそれは観客のノリの良くない日だったのかも知れない。どんなオペラでも、それが非常に上手く演奏されていても、今ひとつ観客の盛り上がりに欠けるというのが、何処の劇場でも見られる。この2日目は、偶然そういった観客だったのかも知れない。

ただ盛り上がりに欠けるといっても、良くなかった公演という意味ではない。幕間の舞台転換時、照明が落ちた中でオーケストラが演奏しているが、その演奏にあわせて、何人かがハミングしていたり、公演後、そのメロディーを口ずさんでいる人がいたり、音楽としては成功した公演だった。


配役

Die lustige Witwe

Operette von Franz Lehár
Text von Victor León und Leo Stein

Musikalische Leitung: Christophe Hellmann
Inszenierung: Kristina Gerhard
Bühnenbild: Annette Meyer
Kostüme: Angela C. Schuett
Choreinstudierung: Pablo Assante
Choreografie: Gaetano Franzese
Dramaturgie: Christoph Gaiser

In deutscher Sprache mit französischen Übertiteln / surtitré en français

Baron Mirko Zeta    Markus Jaursch
Valencienne    Sofia Fomina / Elizabeth Wiles
Graf Danilo    Guido Baehr / Stefan Röttig
Hanna Glawari    Stefanie Krahnenfeld / Melanie Kreuter
Camille de Rosillon    Algirdas Drevinskas / Jevgenij Taruntsov
Vicomte Cascada    Vadim Volkov
St. Brioche    Alto Betz / Michael Müller
Bogdanowitsch    Frank Kleber
Sylvaine    Christine Maschler / Silvie Offenbeck
Kromow    Elmar Böhler / Manfred Rammel
Olga    Barbara Brückner / Elena Kochukova
Pritschitsch    Johannes Bisenius / Harald Häusle
Praskowia    Sylvia Didam / Jolanta Meller
Njegus    Matthias Girbig
Grisetten    Crenguta Aukle, Min Sun Kang, Noriko Yamamoto, Silvie Offenbeck, Sylvia Wiryadi


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