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2008年7月1日 オペラ「カルメン」

オペラ「カルメン」公演日別の日記でも既に書いたが、ザールラント州立劇場はスタジオーネシステムを採用しており、翌シーズンに持ち越される演目の数は一つか二つしかない。そして2008/09年シーズンに再演されるのはモーツァルト「魔笛」とビゼー「カルメン」である。しかし、その再演が発表された2008年4月には「カルメン」(フランス語上演、ドイツ語字幕)は上演されていなかった。「カルメン」の初日(プレミエ)は6月14日(土)だった。

ところで初日公演は、催し的には特別な公演になる。スポンサーが付いている場合はそれらの人たちが訪れることもあったり、また初日公演だけの年間予約もある。いずれにしても初日公演は着飾ってくる人も多く、少し華やかな雰囲気となる。そして公演後のカーテンコールでも演奏者だけでなく、演出家や舞台、衣装の責任者も舞台上に姿を現す。そのときに「ブラヴォー」が出るか「ブー」が出るか、それも初日公演の楽しみの一つである。

その初日公演のために自分もチケット売り場に足を運ぶと既に完売となっていた。後日、再度訪れてみたが、やはり完売。しかし簡単には諦められなかったので、初日公演の開演前に劇場の窓口を訪れたが、そこでも「完売」の文字が並んでいた。どのカテゴリーも売り切れである。仕方なく家に戻ることにした。

初日公演は無理だったが、その後の公演を観ることが出来た。しかし週末などは完売となっており、別の日の公演でも購入できない日があった。やはりその演目の知名度によるものかも知れない。「カルメン」の序曲など、耳にしたことのないという人はいないだろう。それほど有名な作品である。

結局、自分は3公演観ることが出来たが、指揮者が暫定音楽総監督のトリンクスと第二指揮者のヘルマンと両方の演奏を聴くことが出来たのは良かった。トリンクスは先日のリヒャルト・ヴァーグナー「ローエングリン」で、かなり良かったので「カルメン」ではどういった指揮を振るか楽しみであったが、結論から書けば、音は良かったもののインテンポで真面目な演奏だった。「カルメン」といえばどことなく赤色のイメージがあるが、彼の振る「カルメン」は青色といった印象だった。対してヘルマンの方はテンポが速く、よく揺らしているといった印象を得た。どちらかと言えば彼の方が赤色の「カルメン」を作りだしている。「カルメン」に限ってみれば、個人的には彼の指揮の方が面白く感じられた。

またインガ・レファントによる演出は、前回演出した作品アウリス・サッリネン作曲「クレルヴォ」のように具体的な舞台作りで、観客に想像力を必要とさせないものとなっている。観客の反応を見ていると笑い声もあり、好印象を与える舞台かも知れない。そういえばカルメンはずっと白い衣装だったので、舞台を見たあとは、白い「カルメン」といった印象があった。

ところで自分が観た公演で印象に残る日があった。その日の配役表を劇場で見たときだ。普通は役名と歌手名が並んでいるが、その日の配役表は一部違っており、役名の横に「歌は誰々、演技は誰々」といった風に書かれていた。何処の劇場でも同じだと思うが、時々こういった公演がある。歌手の調子が悪く、当日替わりを探そうにも直前過ぎて、替わりの人を見つけても演出まで出来ないときに、こういったことがある。本来の歌手は舞台上で演技だけをして、歌を実際に歌う歌手は舞台袖や舞台脇のProszeniumsloge席で歌うことがある。この日のザールラント州立劇場では舞台角に譜面代を置いて歌っていた。

代役はFrancesco Petrozziとある。何処かで耳にした名前だ。この日の公演、舞台が始まる前に劇場関係者がマイクを持って緞帳の隙間から姿を現し、代役について説明した。舞台が始まって、その彼が歌うとき、彼はしきりに譜面代の角度を変えたり、楽譜に手を置いたりしていた。緊張が伺える。しかし、声の方はふくよかな甘い声で、プッチーニなどに似合っていそうな声だった。ロドルフォなどよく似合うだろう。緊張しながらも彼は最後まで歌ったが、公演後のカーテンコールでは、かなり大きな拍手とブラヴォーをもらっていた。それは「代役おつかれさま」といった拍手ではなく、「本当に素晴らしい歌だった」という意味の拍手だった。その彼の歌声もあって、この日のカーテンコールは盛り上がった。

家に帰ってPetrozziについて調べてみると、自分は少なくとも10回前後、彼の舞台を観ていることが分かった。それらは全てバイエルン州立歌劇場での演目だった。ミュンヘンから代役を呼ぶと言うことは、非常に珍しい(ことのように思われる)。代役が呼ばれるときは大抵はマンハイム周辺が多いように感じられる。それだけ急なことだったのかもしれない。ところでバイエルン州立歌劇場といえば、ザールラント州立劇場の歌手でバイエルンでも歌っている人と言えば、今シーズンでは「La Traviata」でヴィオレッタを歌ったAlexandra Lubchanskyの名前が思い浮かぶ。ミュンヘンの「モーツァルト週間」で「魔笛」の夜の女王を歌った。おそらく自分も聴いているはずだが、残念ながら記憶には残っていない。それ以外では「ローエングリン」でも歌ったYanyu Guoの名前も思い浮かぶ。プッチーニ「蝶々夫人」でスズキを歌っている。

話は「カルメン」に戻る。この演目は、上にも書いたが観客の入りも非常に良く、成功している演目の一つだろう。また見ていると大型バスで他の街からツアーを組んで劇場を訪れる団体もいるよう。ザールラント州にある大きな劇場と言えば、このザールラント州立劇場だけである。他の周辺の街や、また国境を越えてフランスから多くの人たちが来ているに違いない。劇場内では時々フランス語の会話も耳に届いた。しかし最も多く耳に届いたのは「カルメン」の音楽である。休憩中や公演後、劇場の外に出るために歩いていると、多くの人がその音楽を口ずさんでいる。口笛を吹いている人もいる。音楽に国境はないと改めて感じられた。


Francesco Petrozziの歌った日

Francesco Petrozziの歌った日
日記「カルメン」の写真は全て携帯電話で撮影。

劇場前に止められた送迎バス

劇場前に止められた送迎バス
周辺の村々から専用バスに乗って団体客が聴きに来る。


配役

Carmen

Oper von Georges Bizet

Text von Henri Meilhac und Ludovic Halevy
nach der Novelle von Prosper Merimee
Musikalische Leitung: Constantin Trinks
Inszenierung:Inga Levant
Buhnenbild: Giuseppe Di Iorio
Kostume: Magali Gerberon
Musikalische Leitung: Constantin Trinks
Inszenierung, Bühnenbild und Kostüme: Denis Krief
Choreografie: Helge Letonja

Mit: Dubravka Musovic (Carmen), Oxana Arkaeva / Stefanie Krahnenfeld (Micaëla), Naira Glunchadze / Elizabeth Wiles (Mercédès), Judith Braun (Frasquita) – Jevgenij Taruntsov (Don José), Stefan Röttig / Almas Svilpa (Escamillo), Algirdas Drevinskas (Remendado), Rupprecht Braun (Dancaïre), Otto Daubner / Stefan Röttig (Moralès), Markus Jaursch / Patrick Simper (Zuniga),  Gaetano Franzese(Lillas Pastia)


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