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2008年6月5日 バレエ「Picasso on the Move」

2007年11月10日(土)から2008年2月24日(日)までザールラント博物館にて開催された「ピカソ展」のイヴェントの一つにザールラント州立劇場でのバレエ「Picasso on the Move」があった。自分はこれまで観ていなかったが、観に行った人たちは口を揃えるように面白かったという。またモダンとも言っていた。「モダン」と聞いて、もしかすると例えばマッツ・エックの「アパートメント」のような作品か、と勝手に想像していた。

「Picasso on the Move」公演日2008年6月4日(火)、そのバレエを観るためにザールラント州立劇場を訪れた。バレエの公演とあって観客層もオペラに比べると随分若くなる。印象としては「軽く」なると言った方が良いかもしれない。開演前の劇場正面にはシャンパンなどを飲んでその雰囲気を楽しんでいる人の姿があった。

19時半開演。舞台正面には何も飾りのない黒色の緞帳が下りている。そしてオペラの字幕で使われるボードが、いつもの場所に釣り下げられていた。まるで字幕があるかのようだ。暗くなって指揮者が登場した後、その字幕ボードにタイトルが出た。「PARADE(パレード)」。続いて「振付:レオニード・マシーン」、「音楽:エリック・サティ」、「シナリオ:ジャン・コクトー」、「舞台及び衣装:パブロ・ピカソ」、「初演:パリ1917年」、「指揮:クロストフェ・ヘルマン」。そして再度「パレード」という文字が出た。

その後、舞台の幕が開く。舞台上には小さな空間が作られている。小さな街並みといった感じだろうか。そこでダンサーが踊るのだが、その踊りを観ていると、その小さな空間は決して小さくないことが分かる。その小ささが逆に躍動感を与えるようにも感じられる。そして衣装など、いかにもピカソといったキュビスムがそこにはあった。客席の中からは笑い声が聞こえることもあり、賑やかなストリートといった印象を受ける。そこで改めて「パレード」というタイトルが頭に浮かぶと、その動きが存在感を増してくる。

1917年にパリで初演というこのバレエ、当時のパリでもこれが上演されていたかと思うと、何処か感慨深いものがあるが、しかし時代は第一次世界大戦の最中。どういった状況でこれが上演されていたのか気になるところである。単なる娯楽か、それとも政治的意味があるのか。それらのことを考えると、また違った角度からバレエを観ることが出来るかも知れない。しかし実際はそういったことも意識することなく舞台を楽しむことが出来た。

それに続いて、2003年ハーグ(デン・ハーフ)で初演されたポール・ライトフット及びソル・レオン振付の「SHUTTERS SHUT」が始まった。これは音楽が無く、語りだけで踊りはパントマイムのようなものだったが、その語りと動きのテンポが良い。続くシュテファン・トース振付「POEM AN MINOTAURUS」(世界初演)では舞台全体を使って動きがダイナミックなものになった。前半はこの3作品だったが、それぞれに面白さがあり、時間の過ぎるのが早く感じられる。

ポスター後半は1作品だけで、世界初演の「LE SACRE DU PRINTEMPS」。振付はマルゲリッテ・ドンロン。ザールラント州立劇場のバレエ部門、ドンロン・ダンス・カンパニーの代表である。この作品の音楽はストラヴィンスキー。その音楽に合わせてのバレエは見応えがあった。

そして舞台後方に大きな鏡が置かれている。それは角度あって、天井から捉えた舞台上の動きが客席から正面に見えるようになっている。つまり客席からは平面的ではなく立体的な舞台となっている。それからも分かるようにこのバレエは特にキュビスムを意識したような動きが多い。またダンサーは頭頂部と後頭部に面を着けている。つまり、本人の顔、頭頂部の顔、後頭部の顔と3つの顔を持つ。二人組で踊るときなど、それが上手くいかされる。

そして舞台中央には天井から水が落とされ、その下での踊りは非常に野性的なものを思い浮かばせる。動きも大きく、その荒い息づかいが聞こえてきそうなほどの激しく情熱的なものだった。それが観客にも伝わるのか、その作品後、つまりカーテンコールには大きな「ブラヴィー」が飛んでいた。観客には若い人も多いので、何処か熱狂的なカーテンコールになる。この「Picasso on the Move」、想像していたマッツ・エック的なものではなく、もっとパフォーマンス的なものという印象を受けた。単に「バレエ」という一言で表現出来ず、一つの芸術作品と言った方が良いかも知れない。この作品は非常に面白いアイデアや試みを採り入れており、こういった角度から例えばピカソの世界を知ることが出来るのは、非常に興味深く、芸術の持つ力や幅広さ、奥深さなどを改めて感じることが出来る。

劇場を去る前、劇場入り口に貼られてあるポスターを携帯電話で写真に撮っていると、「これ、これ」といった感じで、何人かがそのポスターを指さして通り過ぎていった。このバレエは観る人に強い印象を残しているようだ。


Picasso on the Move

PARADE
Szenario: Jean Cocteau
Choreografie: Leonide Massine
Einstudierung: Susanna Della Pietra
Künstlerische Leitung der Einstudierung: Lorca Massine
Musik: Erik Satie
Bühnenbild und Kostüme: Pablo Picasso

SHUTTERS SHUT
Choreografie: Paul Lightfoot und Sol León
Licht: Tom Bevoort
Text: Gertrude Stein

POEM AN MINOTAURUS (Uraufführung)
Choreografie, Bühne, Kostüme und Licht: Stephan Thoss
Musik: John Adams (Short Ride in a Fast Machine, The Chairman Dances)

LE SACRE DU PRINTEMPS (Uraufführung)
Choreografie und Bühne: Marguerite Donlon
Kostüme: Markus Maas
Licht: Sascha Ertel
Musik: Igor Strawinsky

Musikalische Leitung: Christophe Hellmann
Es spielt das Saarländische Staatsorchester

In Kooperation mit dem Saarlandmuseum – Stiftung Saarländischer Kulturbesitz


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