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2008年4月25日 州立劇場の新シーズン公演予定発表

2008年4月になって、ザールラント州立劇場の2008/09年シーズンの公演予定が発表された。ザールラント州立劇場はスタジオーネシステムを採用しており、毎年、新しい演目がプログラムのほぼ全てを占 める。そして集客力のある幾つかの演目だけが次のシーズンにも引き継がれて上演されることになっている。

劇場に掲げられた幕新シーズンは中国人作曲家で指揮者タン・ドゥン作曲の「Der erste Kaiser(The First Emperor)」で幕を開ける。彼は映画音楽でグラミー賞やアカデミー賞を受賞しており、その彼が手がけた上記のオペラは2006年、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で彼の指揮で世界初演された。これはプラシド・ドミンゴのためのプロダクションで、彼が主役を歌った作品として話題になったものである。指揮者や歌手、演出などもメトロポリタンのものとは別だが、この作品がザールラント州立劇場でヨーロッパ初演される。そしてこの作品は、作曲家が音だけでなく、例えば合唱の動きなども決めているという。そういったものも楽しみである。

その他にはレハール「メリー・ウィドウ」、ロッシーニ「セビリアの理髪師」、マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」とレオンカヴァッロ「道化師」、スカルラッティ「Il Tigrane」、リヒャルト・シュトラウス「サロメ」などで、再演作品がモーツァルト「魔笛」、ビゼー「カルメン」となっている。こうして演目名を見てみると、例えばヴァーグナーやヴェルディのような大きな作品がない。それに対してバレエはチャイコフスキー「くるみ割り人形」「白鳥の湖」と有名な作品がある。演目的には、これらの方が楽しみだが、今シーズンも予想していなかったものが良かったりと、実際に観てみるまでは全く分からない。

年間予約という横断幕その来シーズンの予定が発表されたとき、街中にはAbo(年間予約席)の受付が始まったことを示す横断幕が掛けられた。その約3週間後には、来シーズンの予定表が劇場などに置かれ始めた。真っ赤なもので人目を引くものである。

そういえば今シーズン、劇場総支配人であるダクマー・シュリンクマンの演出が話題になった。それまで演劇で幾つか演出を手がけてきた彼女が初めてオペラを演出したものである(ヴェルディ「La Traviata」)。その彼女が来シーズン、再度演出する演目が「セビリアの理髪師」。指揮が厳しい音作りをするヴィル・フンブルク。どういった作品に仕上がるか楽しみである。

そのシュリンクマン演出の「La Traviata」、噂ではこれが来シーズンも再演されると言うことだったが、実際は「魔笛」だった。集客の差のためだろう。話題的には劇場総支配人演出の作品と言うことで前者が繰り返されてもおかしくはないが、やはり新聞等の批評によるところがあるのかも知れない。

オペラを見に来る人は音楽を聴くだけではなく、その舞台や演出を楽しみにしている。例えばオットー・シェンク演出の「バラの騎士」(リヒャルト・シュトラウス)のロココ調のものや、市川猿ノ助演出「影のない女」(同)の歌舞伎調など、音楽だけでなく舞台効果も非常に印象に残るような作品はそれだけで劇場に足を運ぶ人が増えるだろう。

年間予定表ところで最近よく耳にする言葉で「オペラを作っている人間がオペラを壊している」というものがある。本来の設定を無視した突飛な演出などがそれに当てはまるかも知れない。といっても演出家も、昔の作品のマネだけではなく、新しいものに挑戦していかなければならず、その上、おそらく予算的な問題もあって、演出をするのも簡単ではないと思われる。しかしオペラを観る方としては、そういった中での記憶に残るような演出や舞台を期待したい。

ところでザールラント州立劇場は2006/2007シーズンより<echtzeit>(「真実の時」の意)というテーマを掲げた新しい試みに挑戦している。それはドイツで上演されていない作品を上演したり、また実験的な要素を持っていたりする。今シーズンではドイツ初演のデシェホフ「Eis und Stahl氷と鋼鉄」や音楽と映像を合わせたバルトーク「青ひげ公の城」がそれである。これまでにはrosalie演出のベッリーニ「ノルマ」、アウリス・サッリネン作曲の「クレルヴォ」などが挙げられる。来シーズンの演目ではヨーロッパ初演のタン・ドゥン「Der erste Kaiser(The First Emperor)」、ドイツ初演スカルラッティ「Il Tigrane」及び世界初演のアリ・ベンジャミン・マイヤース「Musikmaschine(直訳すれば「音楽機械」)」がそのシリーズである。

ところでその来シーズンも現体制が続く。劇場総支配人にシュリンクマン、(暫定)音楽総監督コンスタンティン・トリンクス。しかしその体制が続くのは一年だけで、その次のシーズン、つまり2009/10年シーズンから、トリンクスはダルムシュタット歌劇場の音楽総監督に就任し、ザールラント州立劇場の音楽総監督にはトシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)の就任が決まっている。言ってみれば、来シーズンは新体制へ移行するまでの「間の期間」といったものだろうか。

いずれにしても来シーズンは今シーズンとは違った面白さがあり、どの演目も一度は聴いてみたいものばかりである。


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