Homeザールブリュッケンでの日記 > 「音大オーケストラ(指揮・上岡敏之)コンサート」

2008年5月2日 「音大オーケストラ(指揮・上岡敏之)コンサート」

ザールラント音楽大学最近のザールブリュッケンは最高気温が15度前後で最低気温は5度前後。暖かい日もあれば、まだまだ肌寒い日もある。しかし天気予報によると5月の一週目後半から春らしい天候になるということ。その5月2日(金曜日)、18時半過ぎに外に出ると、まだ陽も高く日中の暖かさが残っていた。この日の19時からザールラント音楽大学コンサートホールにて、音大オーケストラのコンサートがある。

指揮は音大オーケストラ指揮科の教授であるトシユキ・カミオカ(上岡敏之氏)。1996年から2004年までドイツ・ヘッセン州立歌劇場の音楽総監督を、その後はヴッパータール市(ヴッパータール交響楽団)の音楽総監督を務めている。その他、北西ドイツ・フィルハーモニーの主席指揮者(1997-2006年)を務めた。彼はオーケストラを率い来日公演なども行い、現在、注目される指揮者の一人だろう。

その彼は2004年よりザールラント音楽大学で正教授の職にある。それ故かザールブリュッケンにおける音大オーケストラのコンサートは、指揮者のコンサートと言うより音大の先生のコンサートといった印象を受ける。個人的には、これまでその名前を何度も耳にしていたものの実際に聴くのは今回が初めてだったので、非常に楽しみにしていたコンサートだった。また音大オーケストラも音大コンサートホールも初めてである。

19時開演の10分ほど前に音大に着いた。建物に入ったところ直ぐにホール入り口がある。そこから中を覗き込んで非常に驚いた。ほぼ満席になっている。後方に空きを見つけてそこに腰を下ろしたが、開演直前になっても人の数は増え、横や後ろでは立ち見の人もいた。座席数は数えてみると約300。一般的に音大のコンサートだと、観客は学生が中心となるが、今回のこのコンサートでは年配の人の姿も多く、雰囲気的には音大のコンサートというものではなかった。

音大コンサートホール19時を少し回ってオーケストラの人たちが舞台上に姿を現した。それから暫く間があってソリストと指揮者カミオカが舞台に登場。写真などで目にするようにカミオカは笑顔である。この日の演目はベートーヴェンの三重協奏曲(ピアノ・ヴァイオリン・チェロ)ハ長調とチャイコフスキーの交響曲第5番。

指揮台の上で指揮者が両肩の力を抜いたように丸くなった。と思えば、両手を挙げて構えた。そして音楽が始まった。前半のベートーヴェンでは、ピアノが舞台中央に置かれているので指揮者の姿をはっきりと捉えることは難しいが、それでも時折見せる横顔は笑顔に見えた。音楽を楽しんでいるように、その奏でる音楽も軽快な響きを持ったものだった。ソリストの3人は学生らしい響きがあるが、対してオーケストラの方は想像した以上に説得力がある。その後、休憩を挟んで後半のチャイコフスキーになった。

こちらは前半のベートーヴェンと違ってより奥深い作品となっている。それ故か指揮者の雰囲気も変わっている。前半は首(頭)を使ってリズムを取っていたが、後半では全身を使って指揮している。時には前のめりにかがみ込んだり、また飛び跳ねるような姿勢になったり。しかしそれでも指揮は分かりやすい。単にオーケストラを指揮しているよう言うよりも、オーケストラと対話し、下からそれを持ち上げるような指揮という印象を得た。そして次々と音が溢れ出す感覚。

このチャイコフスキーでは、このオーケストラの上手さが更に引き出された。繊細さと劇的な迫力。それは指揮者の手によるものが大きいように感じられる。そういえば指揮は楽譜を置かずに振っていたのが印象に残っている。

ところで指揮者カミオカは2009/2010年シーズンより、ザールラント州立劇場の音楽総監督に就任することが決まっている。ただ本来の予定ではそれより一年早い2008/2009年シーズンからその職に就くことになっていたらしい。その間、ザールラント州立劇場の方は音楽総監督を置かない期間が2シーズンある。たとえ一年遅くなっても、その職をカミオカのために空けて待つということ、この日の彼の演奏を聴けば、それは正解のようにも思われる。自分は今回初めて彼の演奏を聴いただけだが、それでも何度も鳥肌の立つ演奏だった。間違いなく、ここ最近聴いたコンサートでは最も素晴らしいものだった。今後も彼が指揮する音大オーケストラのコンサートもあるので、また是非聴いてみたい。そして何よりも彼の振るオペラも観てみたい。自分にとって気になる指揮者が一人増えた、そんな一日だった。


KONZERT des Hochschulorchesters
L.v.Beethoven - Tripelkonzert C-dur op. 56

Solisten:
Kiril Tsanevski, Violine
Julien Blondel, Violoncello
Timur Gasratov, Klavier

Peter Tschaikowsky - Sinfonie Nr. 5 e-moll op. 64

Dirigent: Prof. Toshiyuki Kamioka


▲ページの最初に戻る