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2007年10月4日 オペラ「La Traviata」

初日公演の前2007年9月15日(土曜日)、ザールラント州立劇場の2007/08シーズンが幕開けた。最初の公演はヴェルディ(1813-1901)のオペラ「La Traviata」。この作品が1853年3月6日にヴェネツィア・フェニーチェ劇場で初演された際は準備不足もあって大失敗だったという。しかし現在ではヴェルディ作品の中だけでなく、オペラ界でも最も良く上演される作品の一つとなっている。ザールラント州立劇場のシーズン幕開け作品が、それだけ多くの人に知られた作品ということで、多くの人が期待していたに違いない。自分もその一人だ。

今回の公演の前にアレクサンドル・デュマ・フィスの原作「椿姫」も読んでみた。オペラから話の流れは知っていたものの、オペラは原作とは少し違っているようである。流れは同じだが、省略されている箇所が多い(どちらかといえばバレエ「椿姫」<音楽はショパン>の方が原作に近い)。小説は1848年に発表され、大成功を収めた。オペラが初演されたときはその直後なので、観客の多くの人はその物語を知っており、省略されていても各自で補うことが出来、その世界を作ることが可能だっただろう。しかし現代では、自分もそうだったように省略されている箇所なども分からず原作の持っている世界観を自身で作るのは難しい。そこでそれを助けてくれるのが演出だろう。

ところで演出はオペラを構成する重要なものの一つとして挙げられる。また同じオペラを上演するのでも劇場によって、その演出(物語の解釈)は違ってくる。それは同時に歌手の役作りにも影響を与える。例えば2006年2月にバイエルン州立歌劇場で新演出されたリヒャルト・ヴァーグナー「さまよえるオランダ人」(ペーター・コンヴィチュニー演出)で、最後に主役女性のゼンタが自らの命を絶つ場面において、彼女はそこにいる人たち全員巻き添えに自爆するという最後が描かれている。この役を歌ったアニア・カンペは別の歌劇場でもこの役を歌ったことがあり、オペラ誌のインタビューでそのことに触れていた。別の歌劇場でのゼンタは「夢見る、か弱い少女」という設定だったという。対してバイエルンでは「強気な女性」として描かれている。同じ役でも演じ方を変えることに気を遣ったということが記事には書かれていた。

つまり同じ作品でも、描き方(演出)が変われば、歌手の演じ方も変わる。そのしっかりとしたコンセプトが舞台を作っていく。それが音楽と合わさり、一つの世界を作る。それがオペラの醍醐味の一つかも知れない。

ザールラント州立劇場の「La Traviata」(イタリア語上演、ドイツ語字幕)。この演目の演出はダクマー・シュリンクマン。彼女はザールラント州立劇場の劇場総支配人で、1986年より様々な劇場において演劇の演出をやってきた。今回の「La Traviata」は彼女が演出を手がける初めてのオペラということ。

2007年9月15日(土曜日)、この日の公演は完売だった。シーズン幕開け初日というだけでなく、演目の魅力があったのだろう。そしてこの重要な日の公演にはザールブリュッケン市長だけでなく、ザールラント州首相や文化省大臣などザールラント州政府の要人の姿も観客席にあった。指揮はザールラント州立劇場(暫定)音楽総監督コンスタンティン・トリンクス。

そして開演。薄暗い中、弦楽合奏で静かに演奏が始められ、舞台に対する期待が高まってくる。舞台上にはレースのような薄いカーテンがあり、向こう側がうっすらと見えている。その向こうには合唱の人たちが綺麗なドレスやスーツに身を包んで立っている。

静かで何処かもの悲しい前奏曲が終わり、派手な第一幕が始まる。有名な「乾杯の歌」が演奏される。そのようにしてオペラ「La Traviata」が始まった。

この公演は最初に感じた期待に応えるように、音楽的には大成功の公演だった。歌手や合唱、オーケストラの演奏にも気合いが感じられる。

ただ舞台の方は、オペラの華やかな舞台を想像していた人にとっては少し物足りない演出だったかも知れない。3幕とも舞台転換はなく、また照明の効果もほとんど感じられなかったので、物語における時間的、空間的な移動が全く感じられず、メリハリのない舞台だった。何より演出にコンセプトが見えず、演出はオペラにおいてほとんど何も語っていないように思えたのが少々残念だった。また幾つかの場面、例えば歌手の立ち位置や人の動き方など、2005年のザルツブルク音楽祭の「La Traviata」(ヴィリー・デッカー演出)の影響をそのまま受けたのでは、と思えるようなものがあった。改めて演出の大切さが意識された演目だった。

しかし演出が少し存在感のないものだったとしても、音楽的には素晴らしく、何度も生演奏で聴きたい作品であることには違いない。自身も9月に3度、この作品を観に劇場に足を運んだ。主役の配役が違う日もあり、色々な演奏を楽しむことが出来た。


初日公演の配役

La Traviata

Oper in drei Akten
Text von Francesco Maria Piave nach dem Roman «La dame aux camélias» von A. Dumas
Musik von Giuseppe Verdi

Musikalische Leitung: Constantin Trinks
Inszenierung: Dagmar Schlingmann
Bühnenbild: Sabine Mader
Kostüme: Inge Medert

Elena Kochukova (Annina), Alexandra Lubchansky (Violetta Valéry), Maria Pawlus (Flora Bervoix),
Mikael Babajanyan (Giorgio Germont), Rupprecht Braun (Gastone), Otto Daubner (Marchese d´Obigny),
Jevgenij Taruntsov (Alfredo Germont), Hiroshi Matsui (Dottore Grenvil), Stefan Röttig (Barone Douphol)


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